【Vol.352】リスペクトし合うビジネス

 

 これは人間の性(さが)と申しましょうか、本能なのでしょうか。コストの話になるとたたき合いになるのは、一体どうしてでしょう。
 何が一番不愉快かと言えば、コストダウンの話です。せっかく良いものを創ろうと努力しても、商品として売り出した途端に値引きの要求が来るのです。
 まあ、いつものことだと思えばよいのでしょうが、いつもいつも「安く安く」と言われては空しくなるだけ。開発の意欲が失せてしまいます。
 ナニワのおばちゃんは、値切るのが当たり前。いや、あいさつ代わりと言われたこともありますが、ビジネスの場でも当たり前では困ります。確かに買い手は強いのかもしれませんが、一生懸命の結果を値切られるのは人格を否定されたのと同じように、私は感じてしまいます。
 産業界も「安く安く」と言うばかりです。公共事業は競争入札で一番安いところを決めますし、今や、あらゆる業界で相見積もりは当たり前。値引きで競わせて、とにかく安い方がいいなんて、我が国の産業はこれからどうなってしまうのでしょうか。

 ところが、世の中を見渡しますと、値引きの競争ではなく、技術やノウハウで競い、勝っても負けても、お互いにリスペクトするのが当たり前ということもあるのです。
 それを感じたのが現在、ワールドカップで盛り上がっているラグビーです。激しくぶつかり合った末にケガをして出血することもあるスポーツですが、ノーサイドとなった途端にお互いをたたえ合う姿を見ると、涙が出るほど感動してしまいます。
 加えて、負けたチームのコーチや選手が、決して弁解することなく勝った相手をリスペクトするコメントにはそのコーチや選手の品格が表れていて、とても素晴らしいものでした。

 「お互いをリスペクトするビジネスをしたい」。私はテレビを見ながら、そう思いました。
 日本が勝っているからではありません。外国チーム同士のゲームを見ても思うのです。「試合中は全力で戦い、ノーサイドとなったらお互いにリスペクトし合うようなビジネス。私は、そのようなビジネスをしたいのだ」

 例えば公共事業なら、こういったことです。
 応札する事業者は、自分たちの技術やノウハウを惜しみなく開示し、掛かる費用(工事代金)を掛け値なしで正直に請求します。施主(発注側)は、それらの事業者から長所や特徴という尺度だけで厳選して発注します。その中で、もしも予算(予定した金額)を大きく超えた場合は、発注側も正直にそのことを伝えてお互いに歩み寄るのです。それでも調整できない場合は、設計を変えるなり、部分的に予算内で出来る事業者を探すなり、双方で調整すればいい。

 産業界の相見積もりも同じです。発注側だけではなく、見積書を提出した事業者にも他社の見積書を開示し、事業者同士に納得させて決めるのです。お互いに相手の長所や特徴を知ればその部分での値引き競争はなくなり、自分の長所や特徴を伸ばすことで受注を目指す姿勢に変わることでしょう。

 よく考えますと、本当の競争とは、観客(顧客)という衆目がチーム(事業者)の順位を決めることではないでしょうか。
 誤解を恐れずに申し上げますが、発注側が見積書のコストだけで競争させるのは、本当にフェアプレーと言えるのでしょうか。値引きを要求するだけでなく、技術やノウハウ、そして事業者の経営姿勢もリスペクトして発注するのが本当のフェアプレーではないでしょうか。
 そのようになれば、どこぞの大企業の経営者が、出入りの業者から(菓子折りの底に小判を忍ばせた)ワイロを受け取るようなばかな話はなくなるかもしれません。

 お互いにリスペクトし合うビジネスをしようではありませんか。