【Vol.351】アップデート

 「ビジネスモデルを決めましょう!」と言い続けています。私はビジネスモデルを「事業を進める上で最も基軸となる最上位の概念」と定義しており、そのビジネスモデルを実現するために、新事業・新商品を提案・開発しているのです。
 しかし、ほとんどの会社はビジネスモデルを決めないまま、売り上げや利益といった目先の数字を気にするばかり。ですから、本当に強い事業や売れる商品を開発することができないのです。

 少し前、ある会社が素晴らしいビジネスモデルを表明し、それを実行し始めたことを知りました。その会社は大手家電メーカーで、白モノ家電と言われる冷蔵庫や洗濯機をはじめとして、家庭用電気製品なら何でも造ってきた会社です。その会社がこのたび表明したビジネスモデルが「くらしアップデート」というものでした。

 言うまでもなく、アップデートとは、データを最新のものに更新するという意味です。
 つまり、これまで家庭用電気製品を製造・販売してきた会社が、これからは製品というモノではなくて、お客さんの暮らし、つまり生活そのものを更新してあげましょうというのです。
 これはまさに、私が言い続けてきた「モノからコト」の典型です。
 コト(事柄)として、人々の基盤である「生活」そのものを良くしてあげるというのですから、受け取り方によっては超偉そうな上から目線の物言いに聞こえるかもしれませんね。でも、素直に受け取れば、これほど顧客に尽くす表現はありません。もちろん、この会社が目指すところは後者です。
 なぜ、このようなビジネスモデルを表明したのでしょうか。それは、この会社のビジネスモデルそのものがアップデートする必要に迫られていたからだと、私は考えます。

 かつて、我が国の高度経済成長期を牽引してきた大企業が、今、大きな転換期を迎えています。そのような中、新しいビジネスモデルを見いだせずに迷走している企業は実に多く、特に、モノづくり企業はハードにこだわるあまり、新しい方向を見つけることができないのが現状です。
 当たり前ですが、モノの競争力は品質とコストです。いいモノを、より安くしなければ競争に負けるだけ。ですから、これまではそうならないようにモノの改良・改善を重ね、さらに、コスト競争力を強化するために生産拠点を海外に移転するのが常套手段でした。 しかし、戦い続けてボロボロになった刃先をいかに付け替えたとしても、刀剣という武器そのものが時代遅れで役に立たなくなったことを、理解しなくてはいけません。この会社は、鉄砲というすごい武器が現れて戦国時代を終わらせたことに気付いたのです。

 この会社は、シンプルな電気器具の製造から始まり、売上高8兆円をうかがうまでになったメーカーですが、これまでは、あくまで電気製品という枠の中での歴史でした。
 それが、アップデートというビジネスモデルで、すべてを新しくして、歴史をも変えようとしているのです。しかもそれは、自社はもちろんのこと顧客の生活までもアップデートしてあげるという、何とも壮大なビジネスモデルです。

 私はこの「アップデート」という表現に感動しました。しゃれた言い方だと感じたこともありますが、何より、このビジネスモデルの根底にある強い意志と柔軟な創造力に感銘を受けたのです。

 だから皆さん、私たちもアップデートしようではありませんか。アップデートしましょう、アップップ。なんちゃって(笑)。