【Vol.313】ペンチ三兄弟

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 いやあ、突然の出会いでした。もう、絶対に買わなければいけないと思うような道具に出会ってしまったのです。
 それが、上越新幹線の燕三条駅の地場産品の売店にいた「ペンチ三兄弟」という道具なのです。あえて「いた」と言うのは、まるで、私を待っていたかのように、ショウケースの中から私を見ていたのです。「多喜さ~ん、ここ、ここ、ここだよ~。僕たちを買っておくれ。絶対、お買い得だよ~」。そんな声が聞こえるような衝撃的な出会いでした。まさに即断、即決。値札も見ずに買ってしまいました。
 支払い時に、えっ、そんなにするの? と思いましたが、えいっ、ここで戻すわけには行かないと支払いを済ませたのですが、気持ちはウキウキ、ワクワク、こんなに嬉しい買い物は、本当に久し振りのことです。早速、一緒にいた方々に見せびらかしたのですが、ここで面白いことに気付きました。
 それは、このペンチ三兄弟を見て、ウワッと感動する人とシレッとする人、この二つのパターンしかないのです。要するに、興味の有るのと無いのが、それほどハッキリする商品なのですが、この点でも、私は大いに面白いと思ったのです。

 ペンチ三兄弟と言うのは写真でもお分かりのように、ペンチとニッパー、ラジオペンチのミニチュアモデルなのですが、小さいから使えないというのではなく、立派に道具として通用する本物なのです。でも、通常サイズのペンチは一丁2~3千円なのに、これは三点で1万5千円ほど。それだけ高いのです。
 では、そんなに高いのに、なぜ買ってしまったのでしょうか。それは、ただ嬉しい。ここに尽きるのではないかと思うのです。
 今まで私は、道具には凝っていましたから、ハンズとかホームセンターとか、道具を打っている店に行けば必ず道具・工具コーナーを覗き、「いいな」と思えば買っておりました。でも、その時は必ず値札をチェックし、いわゆるコストパフォーマンスを勘案して買っていたのです。
 それが、見た瞬間に値札も見ずに買うことを決めるとは、いかに嬉しかったかということです。

 そうして、あれから私はとにかく見せびらかすのが嬉しくて、機会があれば見せるのですが、どこでも、見た人の反応が真っ二つに分かれるのです。
 こうなりますと、このペンチ三兄弟を見せることで、一種の「踏絵」と言いましょうか、まさに同好の士を見分けるような、それこそ嬉しさ度合を判別する、その道具になっているのだと思うようになりました。

 このように、私のペンチ三兄弟は、同好の士を見極める道具として、素晴らしい性能を発揮してくれているのですが、なんと先日、このペンチ三兄弟を製造しているメーカーを訪問することが出来たのです。
 工場を訪れた時、私は何か不思議な感じを覚えました。それは、まさに三兄弟の生家を訪ねた、そんな感じなのです。言わば、可愛い子供たちを養子として引き取った里親が、その子たちを生み育ててくれた実家を訪ねた、そんな感覚だったのです。
 変な話です。たかがペンチやニッパー、ラジオペンチじゃありませんか。なのに、愛(いと)おしいとさえ感じるなんて、たかが道具、ただの道具じゃありませんか。それなのに、愛おしいとさえ思う、そんな道具との出会いがあったのです。

 如何でしょうか、ペンチ三兄弟。あなたも三兄弟を養子にしませんか。