【Vol.312】親戚が増える?

312
 嬉しいような、困ったような、そんなお話です。
 クライアントのご担当、最近、出世と言いますか、昇格しまして部長になりました。まさに、実力での昇格ですが、私としても少しばかり想うところがあるのです。
 と言うのも、この方は、いわゆる学歴が殆ど無く、周囲の高学歴がひしめくこの会社にとっては、本当に前例のない、ノンキャリアとしての昇格なのです。お人柄も申し分ありませんが、何より勉強家。いつも新しい技術を習得しようと、貪欲に勉強していたのです。
 そして、いきなり百人近い部下を持つことになったのですが、臆することもなく、しっかりと部を束ね、会社の開発部隊の責任者として堂々と職務を全うしています。それまで先輩、或いは上司だった人も部下になってしまい、さぞや、やり難いだろうと思うのですが、そんなややこしい人間関係もサラリと熟(こな)しているのですから、本当に大したものと、感心するばかりです。

 お祝いと言う程ではないのですが、出先で飲もうということになり、その時、笑い話という前書きで、こんな話をしてくれました。
 自分が昇格して一番喜んだのは家族だが、多くの親戚はノンキャリアである自分の昇格などある筈はない、そう思っていたので、大層、ビックリしたそうです。それで、それまで無視同然で付き合いのなかったのに、最近、何かに付けて用事を作り、随分と会いに来るようになっというのです。

 本当に、笑い話のようですが、よく、お通夜の晩になると、今まで知らなかった親戚が現れ、通夜の席で飲んだり食べたりしたあげく、故人の面倒を見たのは俺だとばかりに振る舞う人を思い出しました。
 それまで疎遠だった人が、何かあると急に親しげになる。よくある話ですが、それと一緒で、ご担当が、誰も予想しなかった昇格をされ、にわかに親戚が増えたということです。
 まあ、こんなこともあるのですねと、笑いながら話すご担当ですが、穏やかな眼差しのその奥に、それまでのご苦労や様々な想いがチラッと見えた気がしました。

 人生には、実に様々な人間関係があります。しかし、どうも親戚とのお付き合いと言いますか、それは随分と都合というものがあると思うことを度々見て参りました。意に反して不遇な時は我関せずなのに、立ち直ってしっかりすると、逆に頼りにしたり、すり寄ってきたり。中には、いま上手く行っているのは俺のお蔭と言わんばかりの親戚もいるようです。
 それもこれも親戚。そう思って気にしないようにすればいいのですが、自分の都合だけの親戚なんて、いない方がマシと思っている人も多いのではないでしょうか。
 このご担当も多分、同じように感じ、そんな気持ちになっているのかと思うと、昇格したばかりに余計な御苦労をすることもあるのだなあと思うのです。
 勿論、今回のお話は大変めでたいことであり、イイ話ですから、これからも親戚が増えたり減ったり、色々なことがあるものだと、愉快に笑い飛ばしたという訳です。

 ここで一句。
 親戚の 数が増えたら 身を引き締め 減った時には 存分に

おそまつ!