【Vol.251】三つの命令

 最近、リーダーシップというものがどれだけ大切な事か、そう思いませんか。もう、政治の世界のことを言い出すとキリがないので、言わないことにします。が、企業の、しかも大企業のトップなのに、どうしてここでリーダーシップを発揮しないのだろうと、不思議に思うことさえあるではありませんか。

 起きてしまった事は、それはそれで仕方の無いことです。そんな事が起きるとは、誰にも予想できないこと、そう言うしかありません。大地震を止める手立てが無い限り、今さら、責任の所在を追求しようとするのは、むなしい努力と言うしかありません。でも、起きてしまった事故や事件の処理をする時、このリーダーシップというものが、如何に大切な事か、そう感じている人は、私だけではありません。国民の多く(いや、殆ど)が、祈るような気持ちで期待しているのに、的確な命令や指示を出せないリーダーを見るにつけて、一体、この人達は何を考えているのだろうかと、不思議な気持ちになるくらいです。

 少し歴史を遡るだけでも、或は、日常の中にも、掃いて捨てるほどの教訓やお手本があるじゃありませんか。なのに、今まで、そのような教訓やお手本を学びもしないし、見てもいなかったのかと思うほど、何もできないリーダー(一応、立場だけの)を見ると、腹を立てるのを通り越して、呆れてしまいます。ひどく呆れるのを、〝呆れが宙返りする” と言うらしいのですが、まさに宙返り級に呆れた話です。

 と、一人でブツブツ言っていた私ですが、先日、仙台に訪問した時、クライアントの方から、それこそ胸の痞(つか)えが一気におりる話を聞いたのです。今回は、そのお話です。皆さんも、一気に胸の痞えを下ろしてくださいね。

 リーダーは、そのクライアントの社長さん、時は3月11日、そうなんです、あの東日本大地震発災、その日のことです。
 大地震が発生してから直ぐに、社長は三つの命令を出しました。一つは、社員の安否確認をして報告せよ。二つ、生産を復活すべく最善を尽くせ、その為の要員は奮闘努力を惜しまずに働け、そのために必要なものがあれば、無条件で会社の資産を活用せよ。三つ、その他の社員は、自宅に帰り待機せよ。余裕のある者は、復旧のためのボランティア活動に参加せよ。有給休暇扱いではなく業務として当たり、会社からの出社命令が出るまで、その任に注力せよ。
 如何でしょうか、三つの命令、見事ではありませんか。このお話、私は聞いた時に涙が出そうになりました。何と素晴らしいリーダーシップではありませんか。特に、三つ目の命令で、生産現場担当ではない多くの社員が、会社と個人の事情に迷うことなく、素早く自宅に戻り、直ちにボランティア活動に注力出来たということ聞き、何と冷静で的確な命令なのかと、驚き、感動したのです。

 確かに、同じような事態が起きた時、二つ目までを言えるリーダーは要るかもしれません。しかし、三つ目を言えるリーダーが、果たしてどれだけ居るのでしょうか。安否確認をした後、生産現場に携わる者は、それに掛かりきりになるのは当然ですが、その他の社員は、ある意味でやることが無い訳で、生産立ち上げに全力で取り組む社員と、自分の立場の違いに、大袈裟に言えば苦しむこともありましょう。
 それを、会社のことはいいから自宅に帰れ、そして、業務として地域の復旧に尽力せよと言えるのは、並大抵の人物ではありません。
 さらに、私はこのお話を多くの人に聞いてもらいたいと、実名で書きたいと申し上げたのですが、この会社の社風というのでしょうか、お話くださった方は、その場で、こう言われたのです。「それは嬉しいのですが、私の会社は、インフラに関わる製品づくりを通じて社会貢献をするためにある会社です。そして、間違いなく社長は、この話を他の誰かに言うことを、たしなめるどころか、叱り、禁ずるでしょう。お願いですから、そのままにしておいてください」。

 如何でしょうか、皆さん、このお話を聞けば、胸の痞えの下り具合、タダの宙返りではありません、ピタッと着地も決まった “三回転二回ひねり宙返り”級ではないしょうか。まさに、痞えが下りて、胸のすくようなお話ではありませんか。

 さあ、日本には凄いリーダーも居られます。そして、素晴らしい社員の方々も居られます。みんなの力を合わせ、これからの復興、頑張りましょう!!