【Vol.252】トシナミは感染する

 よく、「寄る年波(としなみ)には勝てない」と言うことがあります。本来の意味は、波が寄せてくるように齢(よわい)を重ねて老けて行き、それを止める事は出来ない、ということなのですが、本当にそうなのでしょうか。それと、歳を重ねるのは事実ですが、人によって、同じ年齢なのに若く見える(感じる)人と、実年齢よりもずうっと老けて見える人、何がどうして、こうも違うのでしょうか。しかも、若く見えていた人が、環境が変わった途端に、急に老けて行くのを見ると、何かのチカラが働いているのではないか、そんな気がするのです。

 大変な失礼を承知で言いますが、例えば、老人ホームに入居している方、その中に際だって若く見える人って、滅多にはいませんよね。しかし、70歳、或は80歳になっていても、エッと思うほど若く見える人は、結構、居られるじゃありませんか。例えば、私の会社に居るYさん、実年齢は76歳ですが、歳を言うと、みんなビックリするくらいに若々しいのです。

 このYさん、ウチの会社に来て、もう20年になろうとしていますが、その時のままと言ってもいいほど、歳を感じさせないのは何故でしょう。Yさんと一緒に仕事をしている私にとって、この話、自らの素朴な疑問です。ですから直接、本人に聞いたのです。

 考えてみると、私も本当に失礼なことを聞いたものです。「Yさん、何でそんなに若々しく、しかも元気でいるの? 同じくらいの年齢なのに、もうお迎えが来そうな人、多いじゃないですか」、なんて、本人に言ってしまうのですから、失礼を通り越して、けしからんのですよ。まあ、自分で言うのも変ですが、それだけ、Yさんは若々しいということなんです。

 で、Yさんの答えは、「同じ世代の人と一緒に居ると、トシナミに感染するので近づかない事にしているのですよ。逆に、若い人と一緒に居ると、若さに感染するのです」と言われたのです。

 私は、本当にビックリしました。トシナミは感染するという言い方、初めて聞いたのです。確かにそうかもしれません。老人ホームに入居されている方々は、当たり前ですがお年寄りばかりです。しかも、バリバリの方なら入居するのはまだ後ででいいので、そのような方は、ほとんど居られません。要するに、老人ホームというところは、結構なトシナミの方々ばかりです。言うなれば、そこに居るだけでトシナミ真っ只中、そういう状態になるのは当たり前なのです。

 そして、Yさんの言を借りれば、それだけのトシナミ密度の中に居るのですから、絶対に感染して、トシナミがうつるという訳なのです。

 如何でしょうか、皆さん、トシナミが感染するのなら、感染しないような防御方法はある筈です。ひょっとして、人間には精神の中にトシナミ抗体というのがあって、それが衰えると、途端にトシナミに感染してしまうのかもしれません。

 ならば、自己の中にあるトシナミ抗体を活性化するために、年齢に拘らず、いつも若い人や新しいコトと、積極的に付き合うことがいいのではないでしょうか。

 えっ、私はどうしてるかって? 勿論、年齢のことは忘れてますから大丈夫。なに? 忘れるのは歳のせいで、それがトシナミ症候群ですって? う~ん、そうかも…。