【Vol.247】ご縁ですよ

 最近、ご縁だなあ、と思うことが多いのです。不思議なもので、ご縁というものは、いつ誰がどうして、どのようなきっかけで始まるか、その時は全然分からないのですが、後になって、ああ、あの時のことが今のご縁のモトなんだなあ、そんなことがあるのです。そして、それが分かった時には、決まって、「ご縁ですよ」と言うのです。

 つい最近も、私の日経ものづくりの連載記事、「開発の鉄人現場をゆく」から始まったご縁がありました。この記事では、東北地域の凄い技術を持っているメーカーさんと出会い、その技術を取り上げたのでした。

 ご登場いただいたこの会社、とにかく技術の幅も広く、しかも深いのですから、紙面が足りないくらい、内容の濃い記事になりました。自分で言うのも変ですが、かなりの自信作になりました。

 記事が掲載されてしばらくすると、それを見て、商談の引き合いが増えたというお話を聞き、嬉しく思っていたのですが、その中に、ある大学から、研究する素材を試験的に製造する機械をつくって欲しいとの依頼があったと言われたのです。

 聞けば、その先生は日経ものづくりの古くからの読者だそうで、私の鉄人も、毎回欠かさず読んでくださっていたそうで、そこに掲載されたこの会社を、鉄人が取り上げたのだから大丈夫だろうと、電話をしてくれたということです。そして、その研究室の先生が何の研究をなさっているのかというと、なんと、発泡金属を連続して押し出し成形したり、注型製造する研究をしているというのです。

 詳細については、知財が絡んでいますので割愛しますが、私も初めて聞く製造方法の発泡金属。しかも、金属ならほとんどの材料を発泡することが可能だというのです。

 こんなことを聞けば、当たり前ですが、その先生に会いに行くしかありません。その会社の方に頼み込んで、ご一緒させてもらうことに致しました。

 行ってみて、あらためて驚きました。金属を、思うような形に、いとも簡単に発泡成形する技術を、ほぼ完成させているではありませんか。アルミニウムの試作品、元の材料と比較すると、見掛けの比重は数分の一から十分の一くらいでしょうか、手に取ると、まるで綿菓子を持つような感じです。

 このような材料なら、どこにどのようにして使えるか、堰を切ったように用途展開をまくし立てる私に、ニコニコしながら、「あなたのような人を待っていたのです」と、先生が仰います。続けて、「私たちは研究はできるのですが、ニーズが見えないのです。どんなニーズがあるか、それを教えてくれれば、もっと研究が進むでしょう」。
 まさに、研究者との出会いです。言い換えれば、シーズとニーズとの出会い。武者震いするようなご縁が、これから始まるという訳です。鉄人で取り上げた会社も私も、それまでは全く知らず、何のご縁もなかった大学の先生。しかも、こんな素晴らしい研究者だったのに、です。その方が、記事を見て連絡してくれて初めて、新しいご縁が繋がって行くなんて、こんなに素晴らしいことはありません。

 最初に出来た試作品、その試作品を無理やり頂き、あちこちで見せて回っていると、ああしたいこうしたい、ここに使いたい、誰もが目を輝かせてニーズを語ります。
 そして、どなたも聞くのです。「ところで多喜さん、どうしてその先生と知り合ったのですか?」と。もう、お分かりでしょう、私が言うこと、決まっていますよね。

 ご縁ですよ。