【Vol.109】クレーム様

 普通、クレームというのはイヤなものです。人間ですから間違いはあるもので、作ったものや提供するサービスなどに不具合が発生するのは避けられず、それがクレームになります。「クレームゼロ」という目標は掲げますが、それは「限りなくゼロ」に近づけたい願望・目標で、逆に言えば、逃れられない宿命かも知れません。
また、クレームとはメーカだけではなく、情報産業や流通小売、種々のサービス業に至るまで、全ての職種に付いて回るものですから、要するに、全世界に普遍的に存在するものと思って間違いありません。

 で、いきなりですが、私はクレームが好きです。ちゃんと理由があります。
 長い間お世話になってきたクライアントは、どちらからと言うとメーカーが多かったものですから、自然に、この「クレーム様」には大変お世話になってきたからです。「様」と言うくらいに、クレームは偉いのです。クレームが発生すると、それまで気付かなかった問題点が顕在化して、商品の改良・改善が始まります。ですから、クレームによって、商品が良くなり、結果、企業も良くなります。このように、クレームは企業の向上性の大切な要因、もっと言えば「糧」だと思うので、好きなのです。
 その、企業を向上させるクレームを覆い隠したり、無視する企業は多いのですが、今ほど、そのクレーム対応で明暗を分け、話題になっている企業が多いのは時代でしょうか。

 クレームとは、顧客が買った商品に対する不満や不平、欠陥や不具合、その他もろもろの「ケチ」を付けることです。ケチとは忌々(いまいま)しく縁起が悪いことですから、嫌なのは当り前です。ですが、その言い難いことを言ってくれることへの対応で、経営者の技量といいましょうか、企業の姿勢が見えてきます。クレームをバネに良くなる企業と、隠し続けて衰退して行く企業…。一体、どこがどう違うのでしょうか。

 私なりに考えたのは、「自分の所為(せい)」か「他人の所為」か、ここが違うのだと思います。改善や改良、もっと言えば開発の糧ともいえるクレームを、自己の向上の為に役立てるためには、先ず、自分の所為にしなければいけません。クレーム発生の原因を、自らの不徳や不明の所為にすれば、当り前ですが、それを解決するのは自分しかありません。結果、その教訓は自己に反映し、向上することにつながる…。これが、クレーム様の恩恵です。

 クレーム対応とは、実は、吉を呼ぶか凶にして苦しむか、その分かれ道でもあるのです。
 あなたの周りに、とっつきは悪いが心優しいクレーム様、いらっしゃいませんか。