【Vol.110】ゴボウ抜きのメカニズム

 「ゴボウ抜き」という言葉があります。マラソンや駅伝で下位にいる選手が、あっという間にトップに踊り出るような、何ともカッコいい場面で使います。
 また、人事でも使われることもあります。「15人抜きで社長に」というように、大勢上にいるのに一挙に抜いてしまってトップに就任する事です。発表されると、決まって「誰も予想しなかった」とか、「下馬評にも上がらなかった」などと、予想だにしなかった事であるのが特徴です。
 最近、この「ゴボウ抜き」にもメカニズムがあることを発見しました。競技でも人事でも、注意深く見ているとある種の共通性があると気付いたからです。

 説明します。ゴボウ抜きされた人は、本当に抜かれるとは思っていない、或いは抜かれる事を想定していない、のが普通です。例えば、人事で言えばトップに就きそうな言わば「本命」は、口では「いやいや、とてもとても」とは言いながら、実は、そうなったときの事を考えています。いや、考えるのは普通だし、それが人情かも知れません。平静を装っても顔に書いてある。そうなるものです。
 逆に下馬評にも上がらず、あとで結果的にゴボウ抜きする人はどうでしょうか。周囲が意識していないのですから、本人自らがトップになる、或いはなろう、なりたいなどと、振舞う事はありませんし、本人も意識してはいないでしょう。でも、そのような方(結果、トップになる人)ですから、仕事が出来ない訳はありません。バリバリできるが、まだ若い。そんなタイプですから、目立たない筈はありません。ご本人は意識していないが、実は、後継者を指名する側の人から見ると、この「意識していない」が「仕事はできる」し、表面「無欲」。そんなタイプが一番(後継者に)相応しい条件だと思って見ています。仕事に打ち込み、邪念が無い。言い換えれば「フレッシュ」で「将来性」も充分。「なかなかイイぞ」。そう見えて当然です。

 話を戻して、抜かれた側の分析です。多分なるはず、と思った途端に「守り」に回ったのではないでしょうか。競技の世界で言うと「抜かれる筈は無いから、自分のペースで行こう」と思い、手を抜くとまでは言いませんが、気合いは抜けています。ヘタをすれば、ゴールしてからのヒーローインタビュの想定問答を考えたりするかも知れません。
さあ、そうなるとあとから抜くのは簡単です。勢いがありますから、スピードアップのペースも急速に上がり、もう誰にも止められません。トップを行く選手がそれに気付いても、もうペースは上がらず、ズルズルと後退することになります。人事で言えば、下馬評に上がった途端、急にトップになったかのように振舞ってしまうのと同じです。正式に決まってはいないのに、なったときの事が頭をよぎります。そうなると、指名する側から見ると、「なんだ、急に偉くなってしまったな…」と見えて、新鮮さも将来性も急速に色褪せてしまいます。

 ゴボウ抜きとは、抜くほうと抜かれる側、両方にかかるプラスの力とマイナスの力の相対的な力学だと思うのです。両方の位置が離れていれば離れているほど、両者の相対的な力の差は大きいのですが、実はその差が大きいほど、ゴボウ抜き(する側)にプラスの力がはたらきます。意識していないひたむきな向上心という力です。
逆に、抜かれる(運命の)側には慢心というマイナスのブレーキがかかります。この、プラスとマイナスのチカラがあたかも磁力のように引き合い、結果、慣性力という大きなパワーになって、一気にトップに踊り出る。これがゴボウ抜きのメカニズムです。 

 このメカニズムで言うとゴボウ抜きする人の条件が見えてきます。二番手や三番手が一番になってもゴボウ抜きとは言いません。
でも、今は圏外で目立たないけど、ちゃんとやるべき事はやっている人がゴボウ抜きする予備軍です。
 そんな、「隠れゴボウ抜き人材」。あなたの周りにいませんか。