【Vol.108】風が吹けばニーズに出会える

 「風が吹けば桶屋が儲かる」という諺(ことわざ)がありますが、要するに、ニーズというものは色んな現象が掛け合わさって出会うもの、ということなのでしょう。
 最近、こんなことがありました。

 クライアントで住宅関連資材を作っている企業があります。ご多分に漏れず中国製品に押されて、従来のような利益が確保できなくなっています。コストだけで比較されるのはたまらんと、自らが価格を決めることのできる自社商品の開発に一生懸命です。
元々、大手住宅メーカーの協力工場として力を付けてきた会社ですから、品質は勿論のこと、コスト競争力も十分あるのですが、たった一点、欠けていたのは自社商品の開発力だったのです。でも、ここに来てトップ自らが開発の先頭に立ち、文字通り自立するために挑戦している姿は、私にとってもまぶしい感じがするくらいに、ご立派です。

 さて、その開発の過程で小さな小部屋だけの住宅を試作してみました。目的は、小さな住宅を建ててみて、どのくらいの質感が出るのか、そして本当に住んでみて満足感が得られるのか、そんな、正にテストマーケティングのための試作品です。
通常、このような試作品は先が見えないものですから、コストを押さえ、結果、「安かろう悪かろう」になるのがオチですが、この試作品にはウンとお金を掛けました。まあ、住宅資材メーカーですから、良い材料を選定し、しっかりとモノ作りをするチカラはあるのですが、従来はコスト削減が優先されていましたから、この試作品には「うっぷん晴らし」的な側面もありました。
結果、小さいながらも居住空間として閉塞感も感じなく、十分に評価できる試作品が出来たのです。そこで、この試作品を公開することになり、工場に近いところに展示したのです。

 最初、あまりにも小さな家ですから反応も少なかったのですが、ある方の一言で皆の目からウロコが落ちました。
「おじいちゃんのお部屋にしたい」。そのお宅には寝たきりのおじいちゃんがいて、なるべく日当たりの良い部屋を使っているとのことですが、それにしては八畳間は広すぎる。この家ならば、おじいちゃん一人には適当な広さで、しかも、日当たりの良い方向に向けてお庭に置くだけで済む。ヘルパーさんもお世話をしやすくなるだろうと、そう言われたのです。

 そうです。この小さな家は、新しいニーズに出会いました。誰も意識しなかった、介護のための戸建てホームという、新しい商品コンセプトに出会ったのです。言うまでもなく、ニーズが分かれば開発も加速しますし、集中力も倍増します。皆の目がイキイキとした出したのは言うまでもありません。

 皆さん、如何でしょうか。ニーズとは出会うもの。
風が吹けば桶屋が儲かるように、物事が巡りめぐって意外なところに影響を及ぼし、思いがけない結果を招く。それが本当のニーズなら、こんなに嬉しいことはありません。

 今、この国にはコスト競争という風が吹き荒れています。でも、風が吹けばニーズに出会える…。
 そう思えば、いい風が吹いているのではないでしょうか。