【Vol.103】コンセプトで決まる

 仕事がら、旅をしている時間が長いのです。本当に長いのです。このまま行くと、私の人生の三分の一以上は乗り物に乗っている時間ではないかと思うくらいです。いつだったか、二時間の仕事のために、合計九時間半も電車に乗っていた日があったくらいです。
ですから、雑誌などの読み物は欠かせない「旅の友」になっています。読むものは、どちらかと言えばビジネス書が多く、経済新聞社が出している月刊誌や週刊誌が殆どで、定期購読契約で送られてきます。「○○ビジネス」をはじめ、「○○メカニカル」「○○デザイン」「同エコロジー」「同コンピュータ」「同バイオビジネス」等など、同社だけで10誌にもなります。また、その他にも経済新聞と全国紙二つ、業界紙四紙と、それはもう読むのが大変です。まあ、記事を隅からすみまでは読みませんが、一通り、毎日必ず目を通しています。
 で、何でそんなに読むのかと言うと、クライアントが関係している業界情報を知る必要があるのは勿論ですが、実は、いつも「違う視点」を求め、その上であることが分かるようになったからなんです。

 違う視点とは、業界紙や専門誌が其々に同じ話題を扱うとき、全然違う論評で書かれていることに気付いたことです。全く反対の論評になっていることも多く、その見方や考え方が立場によって、大きく違うのが面白いのです。「そうか、そう来たか」。「えっ、どうしてそうなるの?」。それが刺激になり、結果、役立つことが分かったのです。
ですから、無理やり日課にして、読まないと落ち着かないようになってしまいました。何が分かり、どう役立つのか。それは、「異なる視点を通じてコンセプトを抽出」することが、開発を進める上で最もクライアントのためになることだと、明確に認識したからです。

 確かに、「○○ビジネス」は経営者や幹部の方が読むので、経営に関する記事が多い。また、「○○メカニカル」は設計者など技術者が読んでいて、「○○デザイン」はデザイナー。専門誌的なそれらに目を通せば、それなりのお立場や考え方、技術情報などは分かるのですが、それは各論なんです。要は、共通の本質的な理論や構造など、もっと上位の概念を独自に抽出したい、出来るようになりたいと、いつからか私は強く思いました。

 いつも、一番苦労する事ですが、お世話になっているクライアントには経営者から現場の作業者に至るまで、様々な方々がおられます。そして、私や開発スタッフと意見交換をしながら、皆で新しい事業や商品を創造して行きます。その時、その方々の目線や視点に合わせることも大事ですが、それでは本質が見えません。つまり、どのようなお立場(階層と言ってもいいのでしょうが)の方も、目的は会社が良くなるように頑張っている訳ですが、その為に必要な最も本質(理念や目的、指針、或いは考え方)を、其々のお立場に合わせて表現していたら、まとまる訳がありません。どうしても、誰でも分かる一言で括る必要があるのです。

 精製された本質的な表現ができたとき、それが開発に対する求心力となり、皆さんとの一体感が、一気に出来上がります。それがコンセプトです。もう、そうなったら苦労はありません。あとは皆で頑張るだけです。
 コンセプト。開発の成否は、精製したコンセプトで決まります。