【Vol.100】シガラミを見直そう

 銀行の方と話していて、改めて感じたことがありました。
 それはシガラミについてのことです。
 しがらみ(柵と書きます)とは、水流を塞(せ)き止めるために杭(くい)を打ち並べて、これに竹や木を渡したものを言うのだそうです。それが転じて、まといつくものの意味になったようです。どちらかと言うと、しがらみは、「厄介なこと」のイメージが強く、そう思う方が多いのではないでしょうか。

 で、何故、銀行の方と話していて「しがらみ」に通じるのか。これは私だけが感じたことなので、その方は勿論関係無い話なんですが、事の発端は、銀行の現状について話題が及んだときです。「とにかく、最近の銀行マンは数字しか見なくなってね」。その銀行の方(頭取候補の筆頭だそうです)が言われました。
「昔は会社の業績も大事だが、お人柄とか、周辺の情報を総合的に判断してお客様と付き合ったものですよ」。そう言いながら、今ではそのような視点で顧客と付き合える人材がいなくなってしまったことを嘆いておられます。その話を聞きながら、ふっと「しがらみ」という言葉が浮かんだのです。

 私なりに考えたのは、そうなってしまったのは、ひたすら銀行が(銀行ばかりでなく、他の多くの企業も)効率だけを求めて、数字による経営に注力した結果ではないかと思ったからです。致し方の無いことかも知れません。
 日本中が高度経済成長期に馴染んで浮かれていたとき、多くの事案をこなすためには、誰にも判断できる数字を見るのが一番です。そして、数字の裏にある、いやあるはずの大切な情報を、誰も見向きしなくなってしまった…。それが、暫く経って、成熟した市場の優良顧客を探す必要に迫られた今、重要な問題点となって顕在化してきたのではないか。そう思ったら、しがらみを意図的に避けた結果が、却って良くないことのように感じたのです。

 そう言えば、今、比較的元気な中堅企業は、単に効率を求めるだけのマーケティングをしていないことに気付きます。顧客の情報を出来る限り集め、表面上は無関係の情報もきちんと取り入れる努力をしています。そして、丹念に情報分析をする中で、本当の顧客ニーズを炙り出すのです。「データ・マイニング」と言われる手法ですが、基のデータ量が豊富でなければ、マイニング(採鉱)はできません。要は、如何にしがらみを増やして、顧客の情報をより広く集めるか。それが今、最も重要なことではないかと思うのです。

 柵と書いてしがらみと読む。柵の意味は、川を塞き止めるものだそうですが、そこに少しの仕掛けをすれば、それは梁(やな)になり、美味しい鮎を捕る道具になります。
 一見厄介なようで、案外、この言葉には薀蓄(うんちく)が隠されているようです。
 昔の人はそこまで考えていたのでしょうか。