【Vol.335】 社長の名刺を持っているか

 大会社の部長さんです。最初にお会いした時から、普通の社員の方とは違う、「仕事のできる人」という感じでした。歯に衣着せぬとは、まさにこの人のこと。思ったことをズバッと言われるのには、少々、感動を覚えるくらいです。
 その方と呑んでいるときです。社長と話す機会があるかどうかという話題になりました。何でそんな話題になったかというと、つい最近、身近な部署でチョンボと言いましょうか、ちょっとしたミスがあり、それを知った社長が怒っているかどうか、それをどうやって調べるかという話になったのです。
 大会社ですから、みんなオロオロするばかりで、役員に聞いて貰うわけにも行かず、何か「猫の首に誰が鈴をつけるのか」の逆の話みたいで、思わず笑ってしまいましたが、大会社ではよくある話らしいのです。
 その部長さん、「俺なら一直線で社長に聞くよ」と、涼しい顔で仰るのです。そこに居る一同、思わず「えっ?」というくらいでした。
 続けて、「役員だろうが部長だろうが課長だろうが、直接、社長に話ができないなんておかしいでしょ。私はいつも話してますよ」。
 そして、何とその社長の名刺を10枚ほど名刺入れから出して見せてくれたのです。

 大会社、それも社員が数万人を超えるような大会社の社長の名刺を10枚ほど、いつもその部長さんは持ち歩き、イザというときにはうちの社長に話をしましょうと、自分の会社の社長の名刺を差し出すために、いつも持ち歩いているというのです。
 私、永いこと仕事をしていますが、自社の社長の名刺を持ち歩いている人に初めて会いました。そして、何かあったらこの社長に会わせますよと、自分の社長を紹介する為だと聞いて、正直、ビックリしたのです。
 何ということでしょうか。一歩間違えば、社長の腰巾着(こしぎんちゃく・ご機嫌とり)と見られるかもしれないのに、そんなことはお構いなし。自社のトップの名刺を持って堂々と自社とその社長のPRをしているのです。

 そう言えば、この部長さんと出会ったのも、この部長さんが社長からの特命を受けたあるプロジェクトの進め方についてのご相談があってのことでした。
 正直、ややこしいプロジェクトなのですが、社長にとっては、この部長さんにしかできないと、一直線に白羽の矢を立てたということでしょう。
 そして、「こんな仕事をさせてもらって嬉しい。上手く行くかどうか分からないけど、好きにやらせてもらって幸せ」と、どこまでも前向きな部長さん。きっと大出世するのではないかと、思わず唸ってしまいました。
 余計なことでしたが、過去に、一部上場企業であるクライアントで、部長職から役員を17人抜きで社長になった方が居られましたのでそのことを言うと、「ありえないでしょ、そんなこと。そんなことになったら会社は潰れますよ」と笑い飛ばされ、益々、この話、ひょっとするかもしれないと、気持ちの中にしまいました。

 如何でしょうか。社長の名刺を持ち歩く人。自社とその社長を誇りにしている証拠。そう考えるしかない、素晴らしいお話でした。