【Vol.322】邂逅

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 邂逅(かいこう)と言います。思いがけなく出会ったり巡り合うことですが、まさに、その邂逅でした。しかも60年ぶりですから、何とも不思議な体験でした。

 
 そもそも、このお話しの発端は、高校の同窓会のことで後輩に会ったのが始まりです。
 「多喜先輩、安間先生をご存知ですか?」。
 何気ない会話の中で、突然、その名前が出たのです。
 「えっ?安間先生って、安間繁樹さん?」。
 「そうです、その安間繁樹先生です。ご存知なんですね」。
 「繁樹ちゃん、繁樹ちゃんだよ、知っているも何も、実家の一軒おいた隣に住んでいた幼なじみさ。いやあ、ビックリした。何で君が知っているの?」。

 本当にビックリしました。繁樹ちゃん一家が引っ越してから60年、一度も会うことはありませんでした。時折、TVや新聞で活躍していることは知っておりましたが、連絡先も分からず、そのままになっていたのです。

 「最近、社内講演会にお招きしてお付き合いが始まったのです。高校の大先輩ですし、著名な方ですから、私も鼻高々なんですよ」と、後輩も自慢げです。
 「いやあ、繁樹ちゃんと私は年が離れているが、姉と同級生だし、繁樹ちゃんの弟さんは一年上で、よく兄弟同士で遊んだものさ。近くの病院の庭で遊んで叱られたり…」。話は尽きません。
 早速、メルアドを教えてもらい、ドキドキしながら繁樹ちゃんにメールしたのです。

 すぐに返事が来たそのメールの書き出しは「義彦ちゃん、久しぶり…」。60年たった爺さん同士のやり取りが、繁樹ちゃん、義彦ちゃん、なのです。
 そして、数週間を経て日程を合わせ、会うことになりました。
 お分かりでしょうが、繁樹ちゃんは72歳、私は65歳。実は、大人になって会うのは初めてなのです。
 それなのに、お店で待ち合わせて会った途端、「義彦ちゃんだね」、「繁樹ちゃんですよね」と、もう60年前の当時のまんまの会話になったのでした。
 そして、ひとしきりお互いの今までのことを紹介し合い、またすぐに昔話になりました。

 60年前のことが走馬灯のようによみがえります。5、6才だった私なのに、なんでこんなに覚えているのだろうかと不思議なくらい、一緒にキャッチボールをしたことや、繁樹ちゃんの家に遊びに行ったこと、そして繁樹ちゃんがうちに来て庭で一緒に遊んだことなど、実に鮮明に覚えていて、お互い、若返ったどころか、60年前にタイムスリップです。

 実は、繁樹ちゃんは東大の院を出た後、沖縄県西表島のイリオモテヤマネコ (西表山猫) が新種であることを学会に発表した中心メンバーの一人なのです。今も著名な動物学者ですから、話をするうちにとっても誇らしい気持ちになりました。
 たまたまお隣に住んで、兄弟ぐるみで遊んだ幼なじみ。その繁樹ちゃんが大出世して、今や希少動物研究の第一人者。その大先生がこんなに身近な存在だなんて、嬉しいを通り越して大感激です。
 
 話は尽きずにあっという間に時間が過ぎ、次に会う約束をして別れましたが、フッと、繁樹ちゃんを兄のように慕う自分に気付きました。姉が三人、四兄弟の末っ子の私に兄はいませんが、話すうちにそんな気になっていたのです。
 次に会った時、兄さんと呼ばせて欲しいと言ったらどう言われるか、それも楽しみです。

 これが邂逅というのでしょう。大切にしたいと思います。