【Vol.244】睡眠時無呼吸症候群

 名古屋から乗って東京に戻る新幹線の車中、久しぶりに大きなイビキをしている人がいました。久しぶりにというのは、これだけの大きなイビキ、本当に久しぶりに聞いたからです。

 きっと、周りの人、いえ、同じ車両(号車)の殆どの乗客には聞こえていたのではないでしょうか、ゴー … ヒュー ……グゥアッと繰り返す大イビキです。はじめは、その大きさにビックリしていたのですが、その内、心配になってしまいました。

 何故って、しばらくすると必ず呼吸が止まるからです。1分間、いや、もっと長い時間かもしれません。ゴー、ヒューと連続していたイビキが止まり、しばらく静寂が続くのです。それまでただうるさいと思って聞いていた乗客は、急に呼吸が止まるのですから、次はいつ復活するのか、それが心配になり、耳を澄ましてシーンと聞いている、そんな感じの静寂です。そして、急に大きくグゥアッと叫ぶような音(声)がして息を吹き返し、またイビキが始まるのです。

 しばらく聞いていて、この人は睡眠時無呼吸症候群という病気ではないかと、私は思いました。丁度、情態監視装置の開発をお手伝いしているので、そのことを思い出したのです。
情態監視装置とは、シートに内蔵されたセンサーで、座った人の情態、すなわち、感情や身体の状態を監視する装置のことで、ドライバーの眠気や飲酒の有無が分かる装置です。この装置の詳細を説明すると長くなるので割愛しますが、要は、人体の情態や様子がシートに座っただけで分かるという装置です。そして、実はこの装置で、睡眠時無呼吸症候群(SAS=sleep apnea syndrome)を発見することが可能だということが分かったのです。

 さて、SASに特有のイビキは、普通のスースー、グーグー、クークー、といった、普通のイビキではなく、しばらく無音の後に、この人のようにグゥアッという衝撃音を発するような特徴があるようです。それは、水中に長く潜っていて、急浮上して息を吸い込む時の音色に近く、その直前まで呼吸をしていないので、グゥアッと息を一気に吸い込むような音になるのです。
 この人の大イビキ、私は勿論、乗客は何もすることができません。とにかく早く東京に着いて、この人が目を覚ましてくれればいい、皆、そう願うばかりです。
 新横浜を過ぎたころ、私はフッと、企業にもSASがあるのではないかと考えました。それは、今、不振に陥っている企業に共通する症状は、この病気の原因と同じようなものではないかと思ったからなのです。
 企業も、人間と同じように休む時は休む。つまり、睡眠や休養をしっかりと取らなければいけないのに、無理をしたり無駄なことをして、結果、休む時間に休めない。それは、企業にとっては充電やマーケティングが不足している状態です。

 そうして、次の為の戦略や基本的な調査を怠れば、どんな企業も息が切れたり、体調を崩すものです。そして、悪循環に陥ると、寝ようとしても深い睡眠が得られなくなり、大きなイビキをしたり呼吸が長時間止まったりするようになる…。

 こうして考えると、こんな症状の企業、案外、増えているのではないでしょうか。
 いやいや、病気になった人や企業を悪く言っているのではありません。SASは治る病気なのです。体調をしっかりと管理し、肥満や精神的な重圧を取り除き、規則正しい生活をすれば治るのです。

 如何でしょうか皆さん、企業にもSASがある。だとしたら、企業もしっかりと睡眠を取り、朝になったらスッキリと目覚め、体調を万全にして、困難や課題に立ち向かって行く、それが大切な事ではないかと思った次第です。


 そうそう、その人は東京に着いた時どうだったか? 私も気になっていたので、ちゃんと見ていましたよ。それが、着くと同時に自分のグゥアッというイビキにビックリして目が覚め、照れ隠しをするように周りをキョロキョロ見渡し、何事もなかったように降りて行きました。何はともあれ、ちゃんと起きてよかったです。やれやれ…。