【Vol.219】ファーストレディーはパートタイマー

以前書いた、何十人抜きで上場企業の社長になった方に再開する機会がありました。仕事もありましたが、実は、訊きたいことがあったのです。それは、社長に就任されたその時に聞いた、奥様のことなんです。

 自分が社長に(大抜擢されて) なることを、彼は予め知っていたと話してくれました(このことは書きました)。その時に聞いたことで、本当にビックリすることがあったのです。「かみさんのパートをどうするか、考えているのです」。
 何と、社長の奥様はスーパーでパートタイマーのお仕事をされていて、それを続けるかどうか、考えていると言うのです。

 私は、「出来るのなら、ずっとお続けになられたほうがいいと思います」と言いました。だって、上場企業の社長の奥様がスーパーで働いているなんて、凄いことではありませんか。お国のトップで言えばファーストレディ、それも世界中に展開しているグローバル企業の社長婦人ですから、旦那さんを支えなければいけないのでしょうが、パートタイマーも続けるなら、そのこと自体に凄い意味があると思ったのです。

 私の知る限り、上場企業の社長といえば雲の上のような存在、大体、そうではないでしょうか。
 多くの場合、ある時期から「帝王学」を教えられ、或いは、その辺りを試されるようになります。将来のトップになるためには、それこそ、立ち居振る舞いの全てに、あるべき姿を求められ、それを意識した途端に、自身の生活ぶりや、人によっては主義・心情までを変えてしまう人もいるくらいです。

 なぜ、パートタイマーを続けて欲しいのか、それは、見かけや振る舞いではない、その人の本質や能力が評価された結果だという、実にシンプルな証明ではないかと思ったからでした。

 想像してください、上場企業社長の奥様が、スーパーのレジにいる姿。

 殆どの人は、旦那さんがそのような方とは知らないでしょうが、もし、知っている人が見かけたらきっとビックリするのではないでしょうか。と同時に、旦那さんが偉くなっても変わらない奥様の姿に、そうか、旦那さん自身の生活も変わらないのだなと、好意的に捉える人のほうが多いに違いありません。
 上場企業の社長に大抜擢された人の奥様が、変わらずパートタイマーの仕事に精を出している姿、何と控えめで慎ましやかに思え、そこに親近感を持つことでしょう。

 よく、選ばれた人の責任や義務が大切だと言われます。それはそうですし、その通りなんですが、そうなった途端に、別人かと思うほど、変貌してしまう人が多いのは事実です。
 確かに、地位が人をつくるともいわれますが、地位と人間性との相関などありません。
 人の本質は、地位なんかで変わる筈はありません。あくまで、人の本質に地位が付いてくる、その順番ではないでしょうか。

 帰る間際に訊きました。「奥様、どうされていますか」。
 ニコッと笑って、「まだ、(スーパーで)やってますよ」。
 短い会話でしたが、社長のお顔、いい感じでした。

 本当に、できるだけ長く、スーパーにいて欲しいと思います。ファーストレディーがパートタイマーなんて、ステキじゃありませんか。