【Vol.212】開発エネルギーの法則

  失礼な話で、そんな僻地みたいな所にどうして行くのですか、と聞かれることがあります。勿論、私は僻地だなんて思ったことはありませんが、その方から見れば、東京から遠く離れ、大きな産業もないところは僻地と見えるのでしょう。
 でも、私は明確な目的があって行くのです。一見、開発に結びつかないようなところへどうして行くのか、今回はそのお話です。

 実は私、いつの頃か、開発エネルギーの法則というのを発見したのです。大袈裟な言い方ですが、開発のチカラについての考え方です。
 その法則は、開発のエネルギー(force)をFとし、地域のニーズ(need)をN、発明魂(invention)をIとして、その積は一定であるという法則です。式にすると、F=N×I。解説しましょう。

 ここ10数年、経産省からの依頼で、地方の中小企業を訪問し、その企業の持つポテンシャルを、新しい事業や新商品開発に生かそうという活動をしています。その活動の中でいつも感じていたことですが、例えば、地方の会社を訪問した時、私が目からウロコ状態になってしまうことがあります。
 あまりにも斬新且つ大胆な発想、本当に今まで考えたこともないアイデアに出会うとき、一体、どうしてそんなことを考えたのか、聞いてみたくなるのは当然です。すると、意外な答えが返ってきます。
 その社長曰く、ここには消費者も少ないし、大企業もいない、つまり客がいない、ニーズが無い。だから、とてつもないアイデアでも出さないと、誰も気にしてくれない。言い方は違っても、大体同じような答えです。
 目の前に客がいないのだから、余程、目立つようなアイデアを出さないと、大都市にいるお客様が振り返ってくれない。確かにそうです。また、かつては大企業の下請けでまずまずの売り上げを維持していた企業は、その頼りにしていた大企業が閉鎖して仕事が激減した時など、同じように、劇的に斬新且つ大胆なアイデアで臨むしかない。当り前と言えば当り前ですが、そんな事例に、何回も出会うと、それはある意味では必然で、何か法則のようなものではないかと思うようになったのです。

 東京(首都圏)や大阪、名古屋など、大都市周辺の企業には、確かに顧客がいます。
 自動車産業であったり、家電、住宅など、その産業から湧き出るニーズがあるのです。ですが、そのような環境が無いところ、つまり、冒頭の僻地(繰り返しますが、私が言ったのではありません)には、残念ながら、ニーズは極端に少ないため、開発魂を逞しくするしかないということです。
 逆に、ニーズが多いところでは、開発魂が小さくても何とかなってしまうので、結果としては、色々な開発が進む(進んでしまう)のでしょう。
 お客様の少ないところでは、常識的なアイデアでは誰も気付いてくれない。例えて言えば、小さな花火は近くの人にも見えますが、少し遠くなると音だけ聞こえて見えないものです。
 ヘタをすると、音も聞こえなくて、花火の存在も気付かれません。遠くの人に花火だと気付かせるには、とてつもなく大きな花火か、大きくはないがとてつもなく高いところまで上がって、色鮮やかにはじけるしかありません。

 地方で頑張る中小企業、その中でも、とてつもない開発魂というパワーを持つ企業に、私は出会いたいのです。
 そのために、僻地と言われようが不便なところと言われようが、私は、私から出かけて行くのです。
 来て頂いたら、その時点で、その会社のパワーは消え失せます。なぜなら、私の事務所は東京都千代田区一番町。ニーズ満々、大都会のど真ん中だからです。