【Vol.205】事業の空気

 漢字は読めなくても事業の空気は読めないといけません。最近、こんなことがありました。
 スグレモノ(と私は思います)の装置を開発した社長です。ご多分に洩れず、ご時勢ですから急速な景気後退の波に揉まれて、資金繰りは楽ではないようです。そこに、海外から引き合いが来たそうで、大層喜んでいらっしゃいます。これで会社も楽になる、資金繰りも…、それは分かるのですが、この話、ちょっと危ないニオイがします。
 商談の間に入っているのは商社だそうで、かの国での大量販売を保障するという話ですが、この装置、特殊な用途ですから、そう多くの需要があるはずもなく、そんなに売れるものではありません。なのに、この社長、とにかくいい話と喜んでおられます。そうそう、かの国とは東南アジアの国で、急速に工業化している、あの国です。
 ここで、いつもの余計なお世話虫が私の中でムクムクと頭をもたげ、こう言いました。「社長、これって、売ったら直ぐにコピーされ、たちまち同じ物が出回り、結果、売れても数台、そんな気がします」。対して社長、「いやいや、立派な商社さんですから、そんなことはさせないでしょう。かの国でも取引先は多いようですし」。

 皆さん、如何お考えでしょうか。確かに、その商社はその国での実績もあるのですが、肝心な、その国のコンプライアンス(法令順守の管理体制)が、とっても不安です。
 以前、クライアントで実際にあった事件なんですが、新製品(工作機械)を直ぐに持って来い、言い値で買うから…、という話がありました。私は、イヤな予感がしたので申し上げたんです。これって変ですよ、何かあるに違いありません。ひょっとして、一台だけ買ってそのまんまコピーする気じゃないですかね…。残念ながら、その予感が当たってしまい、何と、同じ機械を30台、丸ごとコピーして自社工場で使っているじゃありませんか。五千万円の機械を一台買って、丸ごとコピー、厳密に言えば知財侵害です。でも、今まで何台も買って頂いた上得意ですから、涙を呑んで泣き寝入りするしかありませんでした。

 そのとき、イヤな予感、変な空気を感じたのです。第六感とでも言いましょうか、今風に言えば、空気が読めたのです。残念ながら、その時の空気は読めたのに、結果はよくありませんでしたが、それ以来、空気が読めたときには、積極的に申し上げるようにしているのです。

 話を戻して、商社が入ってかの国に売る話、やはり、上手く進んでいないようです。大量に売ってやるから、故障時対応やメンテナンスを保障しろ、商談には必ず技術者を同行させろ、要するに、口は利くから、後は全部頼むという話なのです。さすがの社長も、これでは何の為に間に入るのかと、不信感が募るばかりです。
 商社がダメと言っているのではありません。私は、事業の筋道がちょっと変ではないかと感じただけなのです。
大体、右から左にモノを動かすだけで儲かる筈はないのに、おかしいとは思いませんか。事業の風、空気の流れが違うと感じて言ったのです。
今回は偶々でしたが、空気を読む、あるいは感じるチカラ、それも経営力なのかもしれません。

 えっ、今の時期、どんな空気かって? 残念ながら、絶対零度に限りなく近い極低温、深呼吸は危険ですから、絶対にしてはいけません。う~っ、寒っ、死にそう!!