【Vol.195】最初はタダ

 最初が、一番難しいのですね。スタートしてしまえば何でもないのに、最初の一歩が始まらないことには、何も始まらないのです。
 もっとも困るのは、開発のテーマが決まり、さあ作ろうか、やってみようかという時です。当り前ですが、結果が先に見えることなどありません。そんな、出来レースなんてある訳はありません。誰もが不安なのに、「失敗したら、誰が責任を持つのだ」、と言う上司、あるいは「確信がないのなら、やめた方がいい」と言う経営者、そんな意見が出た途端、まるで風船に穴があいたように、開発は急速に萎み、終わります。

 心配なのは分かります。きっと、開発に投資した金額が回収されるのは勿論、それを上回る利益が得られるのか、それを心配しているのでしょう。しかし、ハッキリ言って、開発した新事業や新商品が成功するか否かは、神のみぞ知る、ではないでしょうか。マーケティングをしないわけではありませんが、所詮、お客様の心を100%掴むことなど無理な話です。でも、やってみなければ分かりません、と言うだけではいかにも乱暴な話で、それも分かります。

 こんな時、いつも言うのですが、最初はタダで始めたらどうでしょうか。

 何を能天気なことを言っているのだ、と叱られるかも知れませんが、よく考えてください。なぜ心配なのか、その理由を考えると、一番の心配はお金の問題なのです。失敗したら、いくら損をしてしまうか、要は、掛けたお金が回収できるか、それが心配なのです。ですから、最初はタダでいいじゃありませんかと決めてしまえばいいのです。
 タダという意味は二通りあって、一つはお金を掛けないという意味のタダで、二つ目は掛けたお金に対するリターンを求めないという意味のタダです。
 最初に、お金を掛けないで、何で開発が出来るのかと言われるかも知れませんが、それは可能です。企画書を書くのはタダで出来ますから、それをお客様に見せればいいのです。あるいは、限りなくタダに近いお金しか掛けなくても試作品は出来るのです。それをお客様に見てもらい、よかったら本物を作って売ればよいのです。そして、リターンを最初から求めない意味のタダ。これも大切なことで、お金ではなく、情報を求めると決めておけばよいのです。お客様が新事業や新商品を見てどう思うか、その情報を得ることを目的としたならば、お金的にはタダでも収穫は十分にあるのです。

 言葉遊びではありません、これは本質的なことなのです。最初はタダ、そうして始めれば、誰も困りません。逆に、いくら貰えるのかと皮算用した途端に、困ることが次々に出て来る、つまり想定されてしまうのです。未だ作っていないのに、始まってもいないのに、想定された困りごとが障害になって、結果、始まらない。こんな変な話があるでしょうか。始まらないのは、お金の心配をするからで、ただ(シャレではありません)それだけではないでしょうか。 昔々の大昔、この世を創造されたのは神様でしょうが、そのとき、全てはタダでした。しばらくして、人間が生まれ、知恵が付き、偉そうなことを言うようになってお金を使うようになって、全部(お金のせい)とは言いませんが、悩みや苦労が始まったのです。

 さあ皆さん、最初はタダで始めましょう。この世の最初は、全てがタダだったのですよ。
 えっ、それでも始まらない会社はどうするかって? そんな会社は辞めましょう!