【Vol.190】工場の胼胝(タコ)

 よく、あちこちの工場に入ります。クライアントは勿論ですが、見せてくれるなら、見させて頂きます。工場は、文字通り、ものづくりの原点であり、日本を支えている現場です。 最近、工場見学をしていて気付いたことがあります。それは、工場にも胼胝(タコ)があるということです。タコ?しかも工場のタコ、少々説明が必要です。

 タコとは、局部的に刺激の反復を受けて表皮が硬く厚くなった部分のことを言い、手のひらや足の裏に出来るものです。このタコが工場にも出来ると思ったのは、繰り返し、同じ部分にムリやプレッシャーが掛かるところが、タコのように見えるという意味です。
 工場のタコは、あれば直ぐに分かります。例えば入り口、出入りのあるところなどです。出たり入ったりするところにムリがあると、柱に搬送機器がぶつけた痕が残ります。中には補修に補修を重ね、柱の一部分が鉄板を貼り付けて盛り上がり、文字通り、タコのようなものができてしまいます。床もそうです。同じところを繰り返し繰り返し人や物が行ったり来たりしているうちに、その部分だけが磨り減ってしまい、補修すると盛り上がります。機械や装置も同様で、部分的に偏って使われているところにはタコができてしまいます。
 工場のタコ、言い換えればムリの痕跡なのです。よく、「ムリ・ムダ・ムラ」を3Mと言いますが、工場のタコは、ムリがハッキリとカタチになったものなのです。

 さて、スポーツマンや職人さんの話の中で、タコができれば本物だと言う人がいますが、私の意見はその反対です。小さな頃から剣道をしていた私は、本当に強い人の手の平や足の裏を見る機会がありました。本当に強い人、達人はタコができないのです。
 思い出すのは、小野派一刀流の師範でおられた小野十生先生です。大戦で負傷された先生は、足に障害があり、普段は杖を突きながら歩くのですが、道場に立った途端、シャキッとなるのでした。私など、どんなに頑張っても触ることさえ出来ない身のこなしで、ヒラリひらりと稽古をされていた姿を今も鮮明に覚えています。先生の手や足にタコはなく、とても柔らかそうに見えました。

 話を戻しましょう。工場のタコ、それは使い廻しの証ではありますが、決して褒められたものではありません。ムリをしている証拠なのです。
 逆に、タコの無い工場があります。それは、ムリ・ムダ・ムラとは違い、「整理・整頓・清潔・清掃・躾」の5Sが行き届いている工場です。古くても、キレイになっている工場にはタコが無いのです。

 皆さん、如何でしょうか工場のタコ。人間も工場も、要するに物事が落ち着いて、あるレベルになるとタコはできなくなるのです。そして、また部分的な負荷が大きくなると、そこに新しいタコができ、落ち着くと無くなる…。その繰り返しなんです。
 えっ、私にタコはあるかって? さぁどうでしょう、頭はタコみたいですがね。ははは。