【Vol.189】社長のなんば歩き

 「なんば歩き」というのをご存知でしょうか。手足を同期させる歩き方で、腰が平行移動して上体がよじれず、日本の武道の基本は全てこの歩き方で成り立っていると言う人もいるくらいだそうです。ドタドタと足音がしないことや、無駄な力を使わないので疲れにくいのも特長のようです。
 このなんば歩きを、日常的にしている社長がおられます。67歳になられるのですが、とにかくお元気です。年に数回お会いする機会があり、「いつもお元気ですね」、「いやぁ、この歳になるまで、病院に行ったことがないのですよ」、そんな会話から、社長のなんば歩きを知りました。そして、なんば歩きの他にも、実に、色々変わったことをされてているのでビックリしたのです。

 先ずは、階段の一段飛ばし下り。この社長は数階上なら階段を使うそうですが、何と、下りる時には、一段飛ばしながら下りるのだそうです。次に、階段後ろ上がり。これは、人がいないときにするのだそうですが、後ろ向きに階段を上がるのです。そして、目つぶり片足立ち屈み。目を閉じて、片足で立ったり屈んだりするのだそうで、余程、バランス感覚が健全でないとできない技です。やんちゃに笑いながら、嬉しそうに話してくれた社長ですが、自慢する為にしているのではなく、日常的な習慣になっているそうです。
 話を聞いて、ちょっと合点がいったところがありました。それは、この社長の経営方針について、その理由が分かったような気がしたのです。この会社は特殊な製品を作っていて、その気になれば、今の何倍も何十倍も会社を大きくすることも可能なのに、と思うことがあったのですが、それが、どうしてなのか、私にとってはちょっと気になっていたのです。
 ですが、このなんば歩きの話を聞いて、腑に落ちました。元々、特殊な製品を作る会社、最初から他とは違う歩みです。そう、なんば歩きをしているようなものです。そして、ビックリするような製品企画は、階段の一段飛ばし下りや後ろ上がりです。仕上げの、強い経営基盤は目つぶり片足立ち屈みでしょうか、そう思えば納得です。

 いつも言うように、情報化社会というのは、いつでも誰でも、簡単に情報に触れることが出来る社会ですから、皆と同じことをしようと思えば、それはそれで簡単に出来るということです。
 会社を大きくするということは、社会から見られる機会も増大することになり、真似されたり、参考にして改良・改善され、結果、競争相手に有利になることも少なくありません。逆に、何をしているのか分からないと、そう簡単には真似されず、結果、独自な道を進むことが出来るということです。

 皆さん如何でしょうか。少々、深読み過ぎるかもしれませんが、社長のなんば歩き、私には経営戦略の原点と映ったのです。異質の競争力、きっと、それを意識されているのです。
 家に帰って、「さぁ、俺もなんば歩きでもするか」、そう言うと家内が、「いい歳してもてる訳ないでしょ」。なんばが、ナンパに聞こえたようでした。そりゃ、そうですよね。