【Vol.140】後継ぎのジレンマ

 ご相談の中で、企業経営における後継者の問題が多くなっています。正に、少子高齢化社会が顕在化しているわけですが、とりわけ、後継者不在の傾向が強くなっているようです。
しかし、問題なのは後継者がいる(経営者の子供)のに、その当人が、後を継ぎたくないというケースが増えていることにあるようです。

その理由は様々ですが、共通的な傾向が見られます。それはジレンマとも言えるもので、「よし、やるぞ」と踏み込めない精神的な壁にぶち当たることのようです。ジレンマとは、どちらとも決めかねる板挟み状態のことですが、具体的に言えば、受け継げば「すんなり継いで、先代の功績を貰って楽をした」と言われるだろうし、断ったら「そんなに恵まれているのに、何故チャンスを生かさないのだ」と言われかねないという、全く相反した、なんとも可哀想な状態です。
大袈裟に言えば、受け継ぐも地獄、断っても地獄。まして、先代の成功と苦労の背中を見て育った子供にとっては、幾つになっても超えられない「カリスマ親」という、トラウマにもなっているようです。

 皆さん如何でしょうか。私はこのような立場に置かれたことが無いので、ジレンマに陥ることについては分かりません。でも、気持ちは分かるのす。
分かるというのには理由があって、長年、このような方々を見ていて気付いた点があるからです。それは、皆さん共通して「良い人」なのです。
成功した企業の経営者の子供に生まれ、経済的にも恵まれて育った人達は、ある意味、ゆったりとした人です。表現は悪いかも知れませんが「ガツガツ」と、他人を排除しても自分だけとは考えない人たちで、(勿論、そうでない人もいますが)当然優しく、周囲への気配りも出来る人なのです。

 そんな「優しい気配り人間」は、少々考えすぎることが多いようです。自分のことを優先して考えればいいものを、他人は自分をどのように見ているのだろうと、最初から周囲に目が行ってしまうのです。自分よりも他人に目が行くことは悪いことではありませんが、意思決定が重要な経営者になるためには、このような迷いは不要です。

 私はこのようなとき、次のようにお話します。
 「先ず、今の自分が幸せかどうか考えましょう」。そして「幸せだったら、経営を通じて多くの社員に、もっともっと幸せになってもらいたいと考えましょう」。続けて、「その気持ちがあれば、例え失敗しても、あなたを非難する社員はいませんよ」。「一生懸命という姿が、先代とあなたに共通的にあれば、代が代わったことにはなりません。経営者の姿勢が同じなら、社員は先代と同じようにあなたについて行くことになるでしょう」。

 後継ぎのジレンマ。案外、深刻です。でも、優しい気配り経営者が増えれば、私がいつも言う、分かり合える仲間のビジネスや、不要なな競争をしないニュービジネスがドンドン立ち上がって行くのではないでしょうか。それはある意味で、この国の競争力に繋がります。
 ところで、もしもその立場に私がなっていたら、私は迷わないかって?
 そりゃあ、ξ、〆、♪、♯…ですよ。ゴホン。