【Vol.95】A3一枚の稟議書

 開発した新商品(工作機械)のご案内をする為に、クライアントのご担当や社長とユーザー企業に訪問したときのことです。
 先方にはその機械で生産できる製品のサンプルをかなり以前にお渡ししていましたから、今回の訪問はご検討の結果を教えていただく為の訪問です。実際に検討作業をしたご担当、その上の課長さん、そして部長さん。そうそうたる顔ぶれが私達の前に並びました。
 結論を申しますと、機械はご購入いただけることになり、ホッとすると同時に嬉しく思いました。なんせ、従来には無かった画期的な機械ですから、その基本的なコンセプトがご理解いただけたかどうか、私の最も気になるところだったからです。

 緊張感が少し緩んで談笑しているところに、先方の社長がご挨拶ということで入室されました。当方も社長自らのトップセールスですから、トップ同士の「エールの交換」とでも言いましょうか。そして、先方のご担当が確認のために資料を見せながら、改めて今回の商談に付いて説明を始めました。
 そこでビックリしたんです。A3サイズにまとめられ、極めて簡潔にまとめられたその資料が、実は稟議書だったからです。
 斜めにその内容を見ると、まぁ分かりやすく言えば、普通だったら何十ページにもなる稟議書がたったの一枚に凝縮されているのです。しかも、ハンコは三つです。ご担当、課長、部長の三つなんです。

 社長と部長が退室されて、その稟議書について聞きました。「その一枚で稟議が通るんですネ。」「そうです。実はもっと簡単にしろと言われているんですよ。」「4500万円の買い物の決済が、役員さんや社長抜きで出来るんですネ。」重ねて言うと、「それも、もっと簡単にしろと…。」呆れるほどの「風通し」です。課長さんが、「先ず、稟議書の量が多いとそれにかかる時間が必然的に多くなります。」「当然、読む時間もかかり、ハンコが多ければその倍数の時間もかかる…。」「勿論、機械の性能やコストも大切ですが、その決済にかかる見えないコストを、私達は下げようとしているんです。」

 当たり前と言えば当たり前ですが、何という合理性でしょうか。考えてみると、多くの企業内で飛び交う夥しい数の稟議書。その稟議書を書く人、読む人、決済する人。一つの稟議案件にどれだけの人が関わるのでしょうか。しかも、決済分掌が上がるにつれてコストの高い人が時間をかけて決済するのが普通です。ご担当が、係長、課長、部長、役員、社長、其々に同じ説明を繰り返す姿を、あなたも度々目にしていることでしょう。

 帰りの電中で思い起こして改めて関心しました。稟議書にかける工数もコストの内。そんな視点でカイゼンを続ける企業文化は、もう会社のDNAになっています。そう言えば、こんな時代でもこの会社のグループはどこも増収増益です。製品を採用するか否かをコストパフォーマンスで判断するのはどこの企業も同じです。しかし、その判断のプロセスのコストパフォーマンスも考えている企業を、私は初めて知りました。

 だから強い。簡潔な稟議書が利益に直結するならば、やらなきゃ損ですよね。