【Vol.94】利益は固定費という考え方

 自動車部品メーカーの社長さんと話していたときです。私にとって文字通り「目からウロコ」のような話がありました。
 ご存知のように、自動車部品のコストは「積み上げ方式」で決めているのが一般的です。原材料費、加工費、検査費、組立費、管理費、運送費、その他色々積み重ね、最後に利益を何パーセント乗せるか…、というように決めているのが普通です。ですから、部品の単価に連動していくらの利益があるか、その値が違うのは当たり前の世界です。
 つまり、利益は「変動費」であり、場合によってはその虎の子も買い手(顧客)の都合で大きく削られることも珍しくありません。珍しくないどころか、下請の部品メーカーはいつも削られているのが現状です。
 逆に、利益を確保するためには、生産量数に期待するしかありません。新車がヒットして大きな生産量数になれば、「量産効果」によってコストダウンが図れます。そして、部品単価を構成する利益以外のコストが低減する結果、利益を相対的に増加することが可能になるのです。しかし、完成車メーカーはそんなことを百も承知で、「コストダウンができたんだから、利益も減らして全体を下げなさい」と言うのが、これまた業界の常識なのです。

 その部品メーカーの社長が言われたのです。「利益を固定費にしなければ生き残れない。」何という大胆不敵(失礼ながら)な発言でしょうか。思わず「な、何をおっしゃっているのですか。殿、ご乱心…。」まぁ、大袈裟に言えばそんな感じです。
 社長は続けて、「お得意様といえども、我々の部品があるから立派な自動車が出来るんです。一方的に完成車メーカーだけが利益を確保し、部品メーカーはいつも爪の先に火をともすような利益だけ、なんて通りませんよね。「我々も、一個あたりの利益を先ず決めておくようにしなければ、開発費も捻出出来ません。いつもギリギリでやっていたら、それこそお互いが不幸になってしまいます。」自らを奮い立たせるように、キッパリとおっしゃるのです。

 正に、正論。そう言えば、部品を開発する知恵や労力(汗)は、単価が高くても低くても同じように必要です。知恵と汗の価値が部品単価の何パーセントが適正かという理屈は、どう考えても変なお話です。もっと言えば、その価値までも全体コストの何パーセントと決めていたからこそ、不毛のコスト競争に巻き込まれていたのではないでしょうか。
 逆に、適正な知恵と汗のコストを予め決めておけば、量産によるコストダウンも出来るのは同じですし、受け取る利益は数量に正比例して伸びる訳ですから、それを新たな知恵の創出に充てることが可能になり、結果、知恵の競争力が強化され、更に良い製品が生まれるようになるのです。
 知恵が詰まった部品は、機能や性能が向上したのに加えて軽量コンパクトになり、原材料費、加工費、検査費、組立費、管理費、運送費、その他色々のコストも全部下がるのでしょうから、全体が安くなるのは当然です。「これなら文句は無いでしょう。」社長のゆるぎない信念です。

 完成車メーカーも部品メーカーもお互いに良い結果を出すための「利益は固定費」という考え方。
 知財立国ニッポンを支える、最も基本的な考え方ではないでしょうか。