【Vol.75】官際を越えよう

 お付き合いしているクライアントには、少なからずお世話になっているお役所との関係があります。その業種・業界を所轄している官庁です。許認可や各種イベントのご案内、事業への補助金など実に様々なことがあります。農業だったら農林水産省(以下、農水省)、工業だったら経済産業省(以下、経産省)といった具合です。あまり良い響きではありませんが「所轄官庁」と言っています。
 最近、その所轄官庁にも「際」があり、その「官際」を越えると良い事があるのが分かってきました。際とは境目のことですから、官際とは官庁が所轄する業種の区分みたいなものです。その区分を越えるというのは、お願い事や相談を、本来所轄するお役所以外のところに行くことです。

 実例を挙げると、ある畜産業者さんが農水省ではなく、経産省に支援のお願いをしたところ、思いのほか喜んでくれて支援もしっかりとしてくれたというのです。最初は、経産省では馴染めないだろうと、半分、当てにしないで行ったらしいのですが、お役所のほうでは逆に新鮮なテーマとして取り上げてくれたとの事です。
 従来は畜産業は農水省の所轄ですが、経産省から見ても実に自然なケースで、しかもこの話は経産省おはこ(十八番)の「地域産業振興」にぴったり。日頃お付き合いの無い畜産業者だからと、かえって喜んで頂いたのです。畜産業者のお願いは、自分が開発した方法による畜産製品を増産するため、より多くの異業種の事業者が畜産業に参入して欲しいという要望です。しかも、地域を越えての全国展開が希望です。
 これに対して経産省はこのテーマを「異業種交流」として捉え、すぐさまある地方の経産局に問い合わせ、丁度、業態転換を模索していた建設業者さんが手を挙げて、めでたくお見合いが成功したという訳です。

 この話を聞いて、私はその底流には本質的な潮流があると感じました。
 元々、異業種交流というのがあるのを良くご存知の事と思います。中小企業が下請け体質を脱皮するために、その産業分野以外の業種の企業と交流し、情報や技術、ノウハウを組み合わせて新しい事業や商品を開発する手法です。その異業種交流と同じ仕組みが、企業を指導する立場の官庁においても潜在的に必要になっているのではないかと思うのです。

 言うまでも無く、行政は縦割りです。しかし、事業者は自分の所轄官庁の業務区分を意識して事業を組み立てるわけは有りません。
 事業者の意識が向く先は、当り前ですが顧客です。その顧客に向かって官庁も対応するようになると、自ずと官際を越える必要が出てくるのです。

 如何でしょうか。これから何か官庁にお願い事などがあったとき、意識的に官際を越えてみようではありませんか。