【Vol.72】技術のパス回し

 久し振りに訪問した企業でのことです。空調機メーカーの協力企業で、いつも「自社商品」を開発しようと意気込んでいる、とても前向きな会社です。話の中で、最近、異業種の技術を導入したとのこと。そして、その会社名を聞いてビックリしました。
 何と、私どものクライアントだったのです。
 顧問である私に内緒にしていた訳ではありません。先月のクライアント訪問後に提携が進んでいる、仕入れたてのホカホカ技術です。開発の内容からいうと、この技術導入は大正解です。今から新規に技術開発をするより、その分野で定評のあるクライアントの技術を導入するのは、至極当然でしょう。もし、前もって私に相談があれば、迷うことなく紹介するような案件です。この開発は成功すること請け合いです。
 そして、感心したのはその行動力とスピードです。そう言うと、「もう、兎に角、速くしないと置いていかれますから」。ご担当が当り前のように言われます。重ねて、
「新しい技術やノウハウをドンドン試してみて、もしダメだったら、また探す」。
「要は、技術のパス回しを如何に速くするかがポイントなんです」。
 何という名言でしょうか。技術導入や異業種との交流を、球技の「パス回し」に見立て、その本質は一緒だと言われたのです。

 私は久し振りに目からウロコが落ちました。そう言えば、バスケットでもホッケーでも、そしてサッカーも、強いチームや名選手のパスは速く回すものです。トロトロパスしていたら相手方に取られてしまうし、相手の防御体制を作る時間を与えることにも繋がります。速いパス回しなら相手にカットされるリスクも減りますし、その速さに追随するのは容易なことではありません。
 つまり商品開発に例えるなら、真似する時間を与えない事でもあるのです。速いパス回しで前に前に攻めて行く。そうです、今の日本企業に欠けていることを実践しているのです。

 この会社は外から見ればいわゆる「下請け」ですが、社長以下、自立する事が社是のようになっている、私が一番好きなタイプの会社です。その会社に久し振りに訪れたら、こんなイキのイイ話がきけたんです。
 当り前ですが、その日は気分が良いに決まっています。一日中、「速いパス、速いパス…」と、ブツブツ言っていた私でした。