【Vol.61】ミドルアップ、ミドルダウン

 ボトムアップという言葉があります。現場の担当者からの意見・情報・企画などがトップに流れる職場の管理手法です。
 従来、日本の経営はボトムアップで、それに対してアメリカではトップダウンだと言われています。日本もトップダウンになっている企業も増えているようですが、まあ、大方の企業はそんな感じです。

 先日、その考えを改めたいような話がありました。ある大手企業の部長さんとご一緒した時の話です。「我が社はミドルアップ、ミドルダウンですから」と、あっさりと社内の実情を話されたのです。前段として、その会社が周囲の同業者を尻目に一人勝ち状態になっているのは何故か、という私の問いにお答えになっての話です。重大なトップの意思決定の素晴らしさは、新聞でも知ることが出来、常々その背景にあるものは何だろうと、素朴な疑問をもつ者は私だけではありません。
 経営環境がめまぐるしく変わる中で、打つ手打つ手がズバリなのは何故だ。ある意味では今日のわが国企業を救うヒントがあるのかもしれないと、お酒の力を借りての直球質問です。

 「うちはトップが意思決定し易いように、ミドルがその材料を提供し、トップに意思決定させてミドルが具現化するように仕切るのです」。要するに、部・課長クラスが経営者の視点で企画立案し、それに対してトップも信頼している組織になっていると言われるのです。
 「頻繁に開催される戦略会議のシナリオを、部門長が企画・立案し、そのタタキ台に沿って議論が交わされる。言い方を変えれば、トップが何も考えていないように見えるかもしれないが、実はトップは非常に厳しい視点でチェックしている。結論はシナリオに近いものになるのだが、それはミドルの戦略が正しいという証拠でもあるのです」。さらっと言われるのですが、この意味は重要です。

 多くの企業がリストラを進める中で、いつも思うのですが、真っ先にベテランを対象にしたり、能力主義と言いながら実はコスト優先の人事がまかり通るのが実情です。この会社は、普通だったら一番居心地の悪い中堅どころが、一番質の高い仕事をしているという訳です。
 経験に裏打ちされた能力や戦略思考を持つためには、ある程度の年月が必要です。そう言う意味でも、この会社の組織は理想的とも言えるものでしょう。

 自信に溢れるお話し振りに、私も何かしら心地よい感じがしました。