【Vol.48】2アウト一塁

 先日、ある経営者と話していた時の事です。「今、我が社は2アウト一塁のピンチなんです」。と、話されたのです。びっくりして思わず、「これだけ順調なのに、どうしてそんな風に言われるのですか」と、聴き返してしまいました。その会社は、ニッチな製品を供給する、いわゆる中堅企業で、いまどきの環境でも増収増益を達成している、優良企業です。
 「確かに、順調かもしれませんが、問題点も多いのです。そして、その問題を解決しないと、そのうち大問題になるのです」。「それは、放っておくと一塁走者が二塁に盗塁し、味方のエラーで一気に本塁に帰ってくるようなもので、これをピンチと考えなければ、問題解決の心構えが出来ないのです」。

 なんと、名言でしょう。2アウトまで捕っているのに、一塁走者が出ただけでピンチと考える。まさに名経営者ならではの言葉です。
 よく考えてみると、経営がうまく行かなくなる前兆現象の中でもっとも多く見られるものは、「驕り」(オゴリ)です。順風満帆で会社が回っていると、小さな問題には目が行かなくなります。それは、大量リードで迎えた9回裏、2アウトまで捕ったのに、フッと四球で歩かせた走者が一塁に出た。そんな状況でしょうか。守備陣はみんな大丈夫と思っていて、「ドンマイ、ドンマイ」と声を掛け合っています。それをダッグアウトで見守る監督も、笑顔で頷いている…。そのうち、ゲームの流れが変わって、あっという間に逆転サヨナラ負け。高校野球によくあるような光景が現実になってしまうのです。
 こんなに分かりやすい経営指針があるでしょうか。常に、どんなにリードしていても、走者が出たらピンチと思え。そして、すぐ対応する。

 しかし、皆さんどうですか。「言うは易く、行うは難し」です。こんなに単純明快なことでも、実はオゴリというスモッグに覆い隠され、優れた経営者と思われた方が自滅して行くのを、私達は何回も見て知っています。
 数日後、久々に自宅で見ていたプロ野球中継。ゲームセットの後のヒーローインタビューです。連勝していることもあって、「順当な勝ちゲームでしたね」と言うのを遮るように、「最終回の2アウト一塁のときが一番のピンチでした」。思わぬ答えに戸惑うアナウンサーを横目に、そう言うキャッチャーの顔が、名経営者のように見えました。
 やっぱり、本質は同じなんですネ。