【Vol.49】商店街もビオトープ

 「ビオトープ」という言葉があります。野生の動植物が高密度に生存している空間で、近頃では、都市の中に自然を残したり復元すること、という意味で使われています。このトレンドは、あちこちで顕在化しており、特に土木建設業界では、一種のブームのようになっています。河川の護岸工事でも、従来ならコンクリートの壁を作っていました。しかし、私が子供時代に遊んだ頃のように、自然の草木が生えており、場所によってはホタルが住むような環境に、敢えて戻すような工事方法が主流になりつつあるのです。時間が数十年逆戻りするような工事は割高になるのですが、環境にやさしい、いや、自然環境そのものを取り戻そうとする、現代の必然的なニーズと言えるでしょう。
 この、ビオトープは社会現象といっても過言ではありません。何故なら、その兆候はあらゆるところに見え始めているからです。

 例えば、自然食品も一種のビオトープではないでしょうか。化学薬品から作られる高機能な農薬や肥料が、必ずしも人間にプラスではないことを、単に健康面だけでなく、生産プロセスまでも含めて、人為的な操作によるリスクとして捉え、自然に戻そうとする動きが急速に広がっているのです。遺伝子組み換え食品に、殆どの消費者がノーと言うのは、自然でない人為的な食品は危険でもあると、明確に拒否しているからです。
 介護の世界も私にとってはビオトープです。お年寄りを無理やり拘束したり、回復の可能性が低いのに強引に治療をするようなことが、最近少なくなっているようです。自然に、ありのままに終末を迎えることは、人間にとっては当り前の自然なこと、と理解が深まっている証ではないかと思います。

 こうして、ビオトープは私にとって、企画や開発をする際のキーワードとして、いつも頭の中にあるコンセプトになっています。ですから、この間、ある地域の商店街の再開発・活性化についてご相談を受けた時も、この、ビオトープが真っ先に頭に浮かんだのです。
 ご担当の方々は、異口同音に、「かつての賑やかで華やかなあの頃に戻して欲しい」と言われます。でも、どうでしょう。少子高齢化社会になって、若者が闊歩する商店街の姿は、どう逆立ちしても私には想像できません。
 申し上げたのです。「商店街もビオトープです」。
 元気の無いお店は、無理やり手を入れたりせず、乱暴に思われるかも知れませんが、取り壊し、自然な植栽に戻してしまうのです。
 元気の良いお店があり、お店が開いている空間に蝶々や昆虫が飛ぶような自然が残っている商店街。想像するだけでも楽しいと思いませんか。