【Vol.41】スロービジネスのすすめ

 fast food という言葉があります。ハンバーガーや牛丼、フライドチキン等が知られています。
 私達にとって、とにかく速くて、そこそこの味なので、もう、普段の生活にすっかり馴染んでいますし、その存在に違和感を感じることはありません。

 しかし、その fast foodについて、目からウロコ状態になってしまった話があったのです。
 講演を行った際にお世話になった方と、食事をしていた時のことです。「私の知人が、スロー・フードをやっていましてね」。初めは何のことか解りませんでしたが、要するに、ファースト・フードがまずいから、徹底的に美味しくしようとした。そうしたら、結果的にスローになってしまい、開き直って slow food を看板にしているお店がある。という話だったのです。
 解説です。大量生産で安くするのもいいが、本当にお客さんに満足していただきたい。だから、美味しくしよう。その為には、時間が掛かる。当然、遅くなる。この、当たり前のことを、徹底的にやる。そうしていたら、店の前にはお客さんがいつも並ぶようになったという訳です。
 こんなに、潔く、清々しい話は滅多にありません。私の体内に充満していたアルコールは、この話で瞬時に消え失せたのであります。久し振りの目からウロコ。私にとって、こんな話を聴けるときこそ、正に「至福のとき」なのでありますが、さて、皆さんはどう感じられるでしょうか。

 ハヤイ。ヤスイ。ウマイ。そう刷り込まれて食べていたファースト・フード。信じて疑わなかったその味は、そんなにビックリするほど美味しい筈はありません。その、素朴な疑問に真正面から向かうと、実はハヤクないほうが、ウマイ。しかも、時間をかけても、そんなにコストには関係ない。そうすると、オソイ(が)。ヤスイ。ウマイ。ことになり、お客が満足する方程式が出来上がるという訳なのです。
 この話ですっかり盛り上がり、一度は醒めた身体に、再度、アルコールが増量されました。
 すっかり二日酔いになってしまったあくる日、帰りの新幹線の中で、フッと考えました。「そうだ、スロー・ビジネスもあるぞ」。そう思ったのです。

 私達は今まで、とにかくスピードが大切、速くないと競争に負ける。そう信じて疑いませんでした。しかし、ナゼ速くないとダメか、深く考えることはありませんでした。そうなんです。
 誰が言ったのか知りませんが、とにかく速く、もっと速く、そう言って、ずっと追いまくられて来たのは、何故なのでしょうか。「追いつき追い越せ」が、いつの間にか追い越されそうになって、つい、焦った結果なのかも知れません。そして、肝心な顧客を見ていなかった、だけではないのでしょうか。
 顧客の為といいながら、ハヤク、ハヤク…。そうして、後を振り返ったら誰もいなかった。それが、現実かも知れません。

 先日、某牛丼チェーンの全国安売りキャンペーンで、何と1000万食が売れたそうです。
 その記事を読みながら、「 slow business 」とつぶやきました。

p.s. オソイ、ヤスイ、ウマイお店は…、ナイショです。