【Vol.28】実装密度の付加価値

 実装密度という言葉があります。電気・電子・情報機器に使われる回路基板上に、演算素子や部品を組み込む密度のことです。この密度が高ければ高いほど、基板は小さくても色々な機能を詰め込むことができるようになります。従って、コンパクトな製品作りの競争をしている業界にとって、この実装密度という言葉には重要な意味があります。最近の携帯電話などが、実装密度的には最高レベルの製品ですが、今後も素子や部品は益々縮小化に向かい、一体どのくらい小さくなるのか、誰にも判らないのが現状です。

 さて、クライアント先の開発会議で、ある計測器の大きさについて議論になりました。
 その製品は今までにはない方式のもので、大袈裟に言えば世界初の画期的製品です。単純な構造ながら、従来製品と同等もしくはそれ以上の性能を持ち、今後大いに期待されているものです。
 議論の中心は、その製品を限りなくコンパクトにしたいと言う派と、数十万円の価格に相応しい大きさにと言う派のぶつかり合いです。「いまどき、実装密度がとても高くなっているのに、大きな製品では認めてもらえない」。「いや、使い勝手を考えれば、小さいだけでは却って不便だ」。どちらの意見もそれはそれで尤もです。更に、「小さく設計したほうがコストが安い」。この意見には誰もが頷くのですが、皆の心中には、ある思いがありました。それは、小さいと高く売れないのではないかという、素朴な不安です。確かに、画期的なものではありますが、従来方式の常識を打ち破るこの製品のコストもまた、従来常識では考えられない安価に収まるものです。性能が同じなら、従来価格帯でよいのですが、何か後ろめたい気持ちです。

 とにかく決めなければと思わず口に出た、「高い実装密度を求める製品は、その逆に価格が安くなって行くことが多い」。私の言葉に、皆が大きく頷きました。半ば、苦し紛れみたいなものですが、いつも感じていたことです。実装密度が上がれば製品の性能も上がる。しかし、すぐにライバルがそれ以上の高実装密度ものを作り、密度に負けて陳腐化して行く。そして密度で競争するうちに、価格はどんどん安くなる。つまり、実装密度には付加価値が見いだせないのです。それならば、実装密度に無関係な製品にすればよい。
 いささか短絡的ではありますが、皆さんはどう思いますか。