【Vol.269】とりあえずビール

 八か月に及ぶ断酒を終えて、はや三カ月。断酒期間中に「断酒の中断」も、実はあったのですが、それはちょっとだけ、自分で言うのもなんですが、実際、よくやったと思っています。しかし、自分の意志の強さがどうのと言うより、断酒したらどうなるのか、どうやら、そのことに興味があったのかもしれません。なにせ、初めた直後から、体重が落ちて行くのが、目に見えて判ります。三日目くらいから、体重計に乗るのが楽しみになり、わざわざウェストを測る為のメジャーも買って、毎日、測るのが日課になったくらいです。いま振り返っても不思議なくらい、あれほど好きで毎日飲んでいたお酒なのに、禁断症状も出ず、アッサリと八か月を過ごせたのでした。

 そして、断酒が明けて三カ月、実はあることに気付いたのです。それは、ビールを飲まなくなったということです。あれほど、お酒の席では最初に飲んでいたビールを、今では殆ど飲まなくなっているのです。以前は、お店に入って、先ずは「とりあえずビール」だったのに、それがないのです。

 不思議です、あれだけとりあえずビールだった私が、今は最初からその日に飲みたいお酒、最近は焼酎のチョイ水割り(ほとんどロック)を頼むようになっているのです。

 正直な話、断酒中にお酒を飲みたくなかったかと言えば、それはそれは、飲みたくて仕方ありませんでした。でも、その誘惑より、先に書いたように、断酒した結果がどうなるのかという興味の方が強かったので、苦もなく乗り切れたのですが、断酒が明けてから、どのようにしてお酒を飲むのか、そのことにも、ある意味で興味を持ちました。

 その興味、言うなれば、以前のような身体にまた戻らないようにするにはどうするか、ということです。せっかく断酒して身体もスリムになったのに、また以前と同じように飲んで、元の体系に戻ってしまったら、まさに、元の木阿弥じゃありませんか。

 断酒中は、当たり前ですがビールも焼酎も飲みませんでした。しかし、実を言うと、とりあえずビールは欲しくて、いま流行りのノンアルコールビールを最初のうちは飲んでいたのです。そうです、アルコール分は勿論、カロリーもゼロというビールです。半世紀にも亘る私の飲酒歴において、これほどの長期間、飲酒を中断することはありませんでしたから、この、とりあえずビールは完全に生活習慣になっていて、アルコール分ゼロのビールのお陰(?)で、その習慣は続きました。

 さて、断酒が明けて最初のお酒、それは勿論、とりあえずビールでした。以前と同じ、お店に入ってメニューを見る前に、(アルコールありの)とりあえずビール、そのまんまです。

 そんなことが数回続いたある時、最初に飲むこのビールの役割について、ふっと、違和感を覚えたのでした。いくら習慣と言えども、一体、何で最初にビールを飲むのか、いや、飲まなければいけないのか。それも、一人で飲む時も数人で飲むのも、なぜ最初にビールを飲まなくてはいけないのか、そう考えたのでした。

 答えは簡単。ずうっとそうしていたからです。何の理由もありません。多分、最初に誰かと飲んだとき、最初にビールで乾杯した。それだけのことなのです。そして、振り返ってみると、最近(断酒する以前)では、ちょっとビールに口を付けて、直ぐに私は焼酎に切り替えていて、実は、あまりビールが好きではなかったのです。要するに、私はビールを飲みたくて飲んでいた訳ではなく、成り行きと申しましょうか、なにも考えなくて飲んでいたのです。

 まあ、お酒のことですから、よくよく考えながら飲むというのも変ですが、成り行きで飲んでいたビールだと分かれば、こだわる必要はありません。それが分かった私は、今まで高カロリーのビールを最初に飲むから太ってしまったのだということにも気付いたのです。ならば、最初から飲みたいものを自分のペースで飲む。そうするようになった私は、ダイエットのあとの、いわゆるリバウンドもなく、ちゃんと体形が変わらずにいるのです。

 いかがでしょう、とりあえずビール。そう言って、あなたはとりあえずで飲んではいませんか。別に悪いことではありませんが、ひょっとして、飲みたくないのに飲んでいるのかもしれません。

 もっと言えば、私達はこの「とりあえず」という言葉にまぎれて、自分の意志と無関係のことを、言わば義務的にしていることが多いのかもしれません。
 そのことに気付いた私は、本当にやるべきことと、やらなくてもよいことを分けて考えるようになりました。いつか、そのことを詳細に書こうと思いますが、明らかに、とりあえずビールをやめてから、私の行動が変わってきたように思うのです。

 とりあえずビール、ちょっと考えてみては如何でしょうか。

 以上