【Vol.198】今こそ、安全・環境・コンプライアンス

 いつも言うことですが、高度経済成長期における企業のパラダイム(規範)は品質・コスト・納期でした。それは、この国のパラダイムでもあり、もっとも分かりやすいビジネスモデルでもあったのです。それが、中国などの猛追にあって通用しなくなりました。特に、コストの競争力は如何ともし難く、多くの企業が自力での限界を超えてしまったのです。ならばと、本当にチカラのある企業は、新たな競争力を得るために、パラダイムそのものを変えることに活路を見出し、見事に立ち直りました。その新しいパラダイムとは、安全・環境・コンプライアンスです。

 講演などで、何十回、何百回も話しているので、段々と知られるようになり、理解者も増えてきて私としては嬉しい限りなんですが、未だ、品質・コスト・納期のうち、特にコストを最優先としている企業が多いのも事実です。コストを下げること、それ自体は買う側の顧客にとって悪いことではありませんが、長期的に見れば企業の収益は圧迫され、結果、品質も落とさざるを得なくなり、悪循環に陥って、経営の機動力も失われてしまいます。そうして衰退していく企業は、なぜ、安全・環境・コンプライアンスにシフトしなければならないのかという、その理由が分からないのではないでしょうか。今回は、そこを書きたいと思います。

 カーボンオフセットという言葉が聞かれるようになりました。温室効果ガスである二酸化炭素の排出権を購入し、自ら排出する炭酸ガス排出量と相殺するというものです。自分は二酸化炭素を出すが、他で抑制した量を買って埋め合わせをする。何か変な感じもしますが、そのお金を、植林・森林保護の為に使おうというスキームですから、お金が工面できるところが排出権を買えば、排出総量が削減できるというのです。言い換えれば、環境を汚す者が、汚さない為の負担をするのです。ならば、はじめから汚さなければいいと思うのですが、そうは行かない事情があるようです。
 その事情とは、今のところは汚したほうが利益が上がるからで、汚さないようにするためには、新しい設備や仕組み、そのオペレーション技術など、要は今までとは違う新しい投資が必要になるということです。このことは、言い換えれば、投資するより今のままの方が安上がりだということで、今のやり方では環境を改善するに必要な収益を上げることが出来ないということなのです。
 このように、カーボンオフセットの問題を、事業の収益性という視点で見ると、明らかに企業が持つ競争力の差であることが分かります。そして、その競争力の差が生じた理由を、安全・環境・コンプライアンスというパラダイムにシフトすることが出来たのか、それとも出来ないままなのかという差であると考えれば、明らかに、シフトした方が収益が上がるという現実に着目すべきではないでしょうか。

 原油や材料がこれだけ高騰している時代にあって、そのコストをどのように吸収するかという議論より、どうしたら付加価値を高めることができるのか、それを考えるしかないのです。要は、安全・環境・コンプライアンスとは、収益は勿論、顧客からの信頼も得られる上に、社会貢献にも繋がる、一石三鳥、知的な経営戦略なのです。
 神様の贈り物である原油や材料に、投機筋のお金が群がり、益々高騰するばかりです。その上、温室効果ガス排出権までが投機筋の標的になるなんて、やはり変じゃありませんか。

 今こそ、安全・環境・コンプライアンス、なのです。