【Vol.156】目的の無い旅

 「どうすれば開発に役立つ情報を集めることが出来るのでしょう」という質問に、決ってこう答えています。「目的の無い旅に出るといいですよ」。何かふざけて答えていると思われるでしょうね。解説が必要です。

 自分のことで恐縮ですが、若いときに何が困るって、訪問する先の無いことでした。そうです、クライアント(顧問先企業)が少ないと、行く先が無いのです。私たち、コンサルタントという商売で一番大切なのは経験なのですが、経験をさせていただく、その場が無いのが本当に辛いことでした。
開発をご一緒させていただき、その経験が次の開発に役立つ。この当り前のことを如何に積み重ねるか、それがコンサルタントの命です。クライアントでの開発テーマは全部違いますが、開発における問題点や課題を解決する手法、そのときに起こる様々な現象や事件は、まさにコンサルタントにとってのコヤシであり糧なのです。

 ある程度の期間の開発経験があると、開発における基本的な目(視点)が出来てきます。後で振り返ってみて分かったことですが、そうなるには5社以上のクライアントにお世話になり、多くの開発経験を積むことが大切です。
でも、クライアントと契約するのはそう簡単ではありません。クライアントから見れば、どれだけ私に技量があるか、厳しくチェックされるからです。これも後から考えて分かったことですが、チェック項目の最重点は、「他企業での開発の動向」や「他業種の技術」など、要するに開発に役立つ情報をどれだけ持っているかで、一言でいえば「誰も知らない開発情報を知っているか」なのです。

 この、誰も知らない開発情報を知るのは大変です。幸い、一点だけ気付いたことがありました。それは、開発に役立つ情報は誰でも知りたいものですが、役立つかどうかは「受け手」が決めることで、「発信側」は気付かないことが多いということです。
重要な情報を知りたいと言えば、その情報源は構えてしまいますが、気楽に会えば何も身構えることなく、気楽に話せるということです。そこで私はあることを考えたのです。

 目的の無い旅をしよう、それが結論です。

 何か貴重な情報が欲しいと言えば、誰だって構えます。でも、何も考えていませんと言えば、気楽(呆れて?)に会ってくれるものです。その繰り返しの中に、実は開発に役立つ貴重な情報が含まれているのです。どれだけ有るかは分かりませんが、必ずあるのは今までの経験で証明済みです。
 「目的の無い旅をしなさい」。皆さん、開発のご担当に、どうぞ一回でも言ってやってください。初めは苦労します。でも、遠回りするようですが、見る見るうちに成果が出てきますよ。目的の無い旅人に、人は寛容です。気楽に会ってくれる方々が本当の人脈で、そこに真の情報があるのです。

 えっ、私の旅の目的は呑みに行くだけではないかって? そ、そんなこと…。
 (ここで明確に否定できないのが弱いところです。ははは)