【Vol.64】コバンザメの本質

 私はよく「コバンザメ商法で…」と言います。先行した企業や大企業の周辺にいて、その企業が出来ない事や見逃しているビジネスをシッカリと実行する方法です。でもその言葉尻から、何かチャッカリと楽をしてやるような印象をお持ちの方が多いようです。今回はこのコバンザメ商法の本質についてお話ししようと思います。

 本物のコバンザメはスズキ目コバンザメ科の硬骨魚で、全長10数センチから80センチまで色々な種類があります。細長い頭頂に小判形の吸盤があり、回遊魚や船舶に吸着して移動するのが特徴です。この、相手方に吸着して移動する方法が、何かずるいような感じなので、コバンザメ商法という言葉があまり良い印象でないように聞こえるのかも知れません。

 実は私も初めはそうだったのですが、コバンザメの吸盤が、実は相手方にシッカリと繋がっているのではないと知ってから、考えが変わりました。
 吸盤は限りなく相手側に近づくために、長い進化の過程で扁平になったものです。タコやイカのように能動的に吸い付くような機能は無く、あくまで隙間を無くすために変形した体形なのです。それが証拠にコバンザメは相手方に危険が迫った時は素早く離れ、自らの危険を回避します。鯨が水面上に現れたとき、コバンザメがつられて出てくるような事は絶対にないのです。

 このように、コバンザメは基本的には自らの力で泳いでいて、扁平な吸盤状の魚体によって省力化を図っているだけなのです。しかも、相手側の為に寄生虫を食べてやったり食べ残しを綺麗にする掃除屋さんの役割もあるのです。要するに、相手側の利益も考えて働いていると言えば少々オーバーかも知れませんが、決して楽をしているのではありません。
 私はこのコバンザメの生態を知ってから、コバンザメを見直しました。楽して儲けるような嫌なヤツと思っていたのが、逆にシッカリしたハタラキ者であると考えるようになったのです。健気にも相手を気遣いながら、決して相手の邪魔にならぬように共存する。こんな思いやりに溢れた生き物なのです。

 「コバンザメみたいにチャッカリとして…」なんて言っていたのに、「コバンザメみたいにちゃんとやりましょう」と言うようになった私は、このやり方が、実はこれからの日本企業の、本質的な経営のヒントになるのではないかと思うようになりました。
 今までみたいに常に主流であり、しかも大きな体になることが当り前。ではなく、主役の座を素直に明渡して、コバンザメのように相手のことを考えながらも共生する。そんな経営手法です。
 無理せず、無駄なく、穏やかに暮らすコバンザメ型経営。皆さんも実践してみませんか。