【Vol.347】エンジェルも人の子です

 「エンジェル」と、ご自分で仰る方に会いました。

 エンジェルとは、投資家と申しましょうか、ベンチャー企業がスタートアップするときに、主に経済的支援をする人のことをいいます。その多くは、お金は出すが口は出さない、いわば優しく見守る天使のような存在ということでエンジェルなのだそうです。

 さて、私がお会いしたエンジェルは、もう80歳になろうかという方でした。かくしゃくとされて元気いっぱい。お話が素晴らしいので、ついつい時間がたつのも忘れて大いに話し込みました。
 この方は、名前を聞けば誰でも知っている老舗企業のオーナー創業者です。それを聞いたときは、さすがの私も緊張してしまいました。ですが、服装はセーターにチノパンツと、普通のおじいさん風です。すごいのは、漂う風格と言いますかオーラと言いますか、それがやはり、成功した経営者は違います。まさにこれが品格かと思いました。

 一方で、お話をしていくうちに、この方は普通のエンジェルとはちょっと違うなと思うことがありました。この方は「気に入った会社を支援するときは、お金も出すけど辛口のアドバイスもするんだ」と、笑いながら言ったのです。この“辛口のアドバイス”、そこがちょっと気になりました。

 それから数カ月。その方から連絡がありました。「自分の思うようにしてくれないから手を引く」と。
 ここまでの経緯を説明しますと、私はこのベンチャー企業と少しだけ関係があり、ある事業テーマのお手伝いをしていました。あるとき、その説明をしてほしいと、この方から頼まれましたので、そのためのアポを取ろうとご連絡したのですが、返事をいただけません。そして、それが数回続いた後、突然、先のような内容の連絡があったのでした。
 とにかく「あんなやり方ではダメだ」「あの経営者はダメだ」と、エンジェルどころか被害者のような言い方をされています。
 こうなりますと、もう片方の言い分もあるでしょう。後日、ベンチャー企業の経営者にそれとなく聞いてみますと、どうも、辛口のアドバイスが続き、支援される側も嫌気が差したようで、けんか別れのような状態になったということのようです。
 まさに、私が懸念していたことでした。

 エンジェルは、創業間もない起業家に資金提供や経営指導などの支援や取次を行う投資家であって、支援先企業の経営を請け負う者ではありません。いくつかの企業に投資して、当たればラッキー、当たらなければ仕方ない。それが基本的な立ち位置ではないでしょうか。

 エンジェル=天使と名乗る以上、神様の使者ですから、何があっても動じ(動揺し)てはいけません。
 それに、余ったとは言いませんが、これまでのオーナー経営者として蓄えた資金の(多分)ほんの一部を提供しているだけなのに、それを失うからやめるなどと、お金持ちがケチなことを言うのもいけません。

 電話口のエンジェルは、最初に会ったときの口調とは大違い。口やかましいおじいさんでした。ですが、何のことはありません。大金持ちなのに出したお金が惜しいと思っていたのでしょう、それが返ってきそうもないと分かった途端、普通の人に戻ったのです。
 そう、ここでのエンジェルは、人の子なのです。本当のエンジェルは、神様と人の仲介者・使者であり、人の子ではありません。やはり、人の子は本当のエンジェルにはなれないのかもしれません。

 ところで、私はエンジェルになれるかって? ははは、なろうと思ったこともありませんし、第一、羽がありませんよ。あっ、それは羽じゃなくて毛髪だろうって? トホホ……。