【Vol.338】社長が思うこと

 最近、とても感動することがありました。いつもお送りいただいているクライアントの社内報に、その会社の社長自らが癌であることを告白し、社員に対しての思いを寄稿されていたからです。
 その寄稿文のタイトルは「癌を患って思うこと」。まず、このタイトルにビックリしました。これほどストレートなタイトルがあるでしょうか。私ならこれほどキッパリと癌を告白することは、多分できません。癌になった自分の気持ちも、多分これほどオープンにはできないでしょう。ですから、本当にすごいことだと思いました。
 そして、癌だと分かった後のお気持ちや周囲の方へのお心遣いなど、社長ご自身の人間としての大きさに、私は畏敬の念を抱いたのです。

 「この半年間で自分の身に起こった事を顧みて……」から始まる社員の方へのメッセージには、癌になって人生観や経営観が変わったことと、その経験を踏まえた、経営者としての的確な視点と判断が記されています。
 続きでは「会社運営に大きく影響が出るほどのインパクトのある日々であったことから、社員の皆さんはもとより、お客様を始めお取引様へも広くお知らせするべきと考え、筆を執りました」と、寄稿の目的が明確に述べられています。これは、毅然とした決意というしかありません。自身の経験を多くの人に知ってもらうことで、お客様や取引先との関係をより良くしたいという強い意思が見えるからです。
 そして「家族を始め、周りの方々から受けてきた恩恵があったればこそ……」という家族や社員の皆さんへの改めての謝意と、「一緒に考え・研究せねば成らない事に思い至りました」というこれからの決意も述べられています。

 私は「一般社団法人がん哲学外来」という、癌患者さんや医療従事者の方への支援事業を行っています。もともとは仕事で知り合った方がお手伝いしていた団体だったのですが、ご相談を受けたことから、組織を改めて社団法人とし、現在、私は事務局長としてお手伝いをしております。
 以来、実にさまざまな患者さんの実態をはじめ、ご家族や医療従事者の方のご苦労などを知るにつけ、癌という病気の怖さと、及ぼす影響について考えることが多くなりました。そのような中で、今回、この寄稿文を拝見し、大きな感動を受けたのです。
 そして、闘病生活を送る中での、会社のトップという公人としての責務と周囲への思いが率直に述べられている、まさに「社長が思うこと」をご紹介することで、この社長のお考えと素晴らしいご対応を多くの人に知ってもらいたいと考えたのでした。

 癌という病気は、ご自身にも大きなダメージがあるのはもちろんですが、家族や周囲の人へも大きく影響します。社長のように会社のトップが癌になった場合には、その上に、事業への影響も重なるのです。
 この「癌を患って思うこと」は、変な言い方ですが、会社のトップとして社長が思うことの、まさにお手本のような素晴らしい矜持ではないでしょうか。

 社長のご回復をお祈りするのはもちろん、大きなご教示を頂いたことに感謝申し上げます。