【vol.293】タクシードライバーの苦節

 先日乗ったタクシー、思いのほかイイ気分になりました。イイ気分と言うより、勉強になったのです。

 荷物があって、浜松町から乗った個人タクシーです。ドライバーさんが、妙に落ち着いていると言いましょうか、ちょっと見ではかなりお若いのに、対応が大人びていて安心できるタイプです。

 運転も上手で、車もキレイです。タクシーも色々ありまして、このキレイかどうかはとても大事なところ、同じ料金ですから、どうせならキレイが良いに決まっています。が、どうもキレイどころか、本当は禁煙なのにきっとドライバーさんがこっそりと吸ったのでしょう、タバコのニオイがしたり、クーラーからの異臭を感じることもしばしばです。

 少し気になって、ドライバーさんの年を聞きましたら、何と、37歳と言われました。私も、個人タクシーの免許はどうしたら取れるのか、それを知っていますから、この37歳と言うのは驚異的です。

 個人タクシーの免許を取得するには、先ず無事故無違反でなければいけません。およそ10年と言われますが、最後の3年は特に厳しくて、駐車違反などの軽微な違反も、お客さんからの意見(アンケート)があってもアウトだそうで、また一からやり直しです。

 逆算するとお分かりと思いますが、この方は24歳(個人を取得して3年経過)から個人タクシーの免許取得を目指し、努めていたということです。

 今どき、若い時から個人タクシー免許を目指して、それをしっかりと実現するという、このような事例は多くはありません。この方も、今までの記録でも2番目(東京都内)だそうで、かなりの難関であった事が伺えます。

 申し上げたいのは、このお話はたまたま個人タクシー免許のことですが、早くから目標を定め、それをしっかりと達成する方に共通の、ある種の威厳みたいなものを、私は感じたということです。

 シートに座るまでの目配りや、行先を告げた時の応対、そして何より、客を不安にさせない見事なハンドルさばき、そのどれもが、まさにプロフェッショナルであるのです。

 お若い時に、どのような動機で個人タクシーを目指したのかは知りません。しかし、多くの個人さんは、免許を取得したら、そこからはマイペース、殆どが個人の範囲内での仕事ぶりとお見受けするのに、この方は違うのです。

 苦節10年、まさにこの方の精進は、自身の人生を決める上で大変貴重な体験であり、今も、それを持続する努力もされています。たまたま乗ったタクシーで、そんな勉強をさせてもらい、本当に嬉しい気持ちになりました。それは、他のタクシーと比べてのことではありません。プロならプロの仕事ぶりが、やはりあるのだという、その事が確認できた嬉しさです。そして、この嬉しさのお裾分けと言う意味で、このタクシードライバーの苦節とプライドをBP通信に書きたくなったということです。

 ドライバーさん、本当に有り難うございました。