【Vol.277】人生の表面積

 人生、山あり谷ありと言います。色々、嬉しい事や悲しい事、成功もあれば失敗もあるという事を、山や谷に例えているのですが、どうも、この山や谷を登ったり下ったりする経験の豊富さで、人物が決まるのではないかと思うことがあります。決まると言うと語弊があるかも知れませんが、違いが有ることに間違いはありません。

 この間、素晴らしい開発者に出会いました。お年の頃なら45、6歳でしょうか、ある会社の開発部を訪問した時にご案内をしてくれた方です。とても博識で聡明と言うのが私の第一印象で、何を訊いてもサッと的確に答えてくれました。しかも、知識の幅と言いましょうか、かなり専門的なことを訊いても淀みなく答えてくれて、長年コンサルタントをしている私も感心した次第です。

 後で聞きましたら、その方は中卒ということで、高校も大学も行っておられず、独学で色々なことを勉強され、その会社の開発リーダーになられたということです。聞かなければ、その方が高校すら卒業していないということに気付く方は殆どいないだろうというくらい、高度な見識をお持ちの人物でした。

 さらに伺ったところでは、この方、かなりの苦労人でありまして、ご実家の事情で進学できず、しかも(中学)卒業後すぐに、家族の生計を支えるくらいに働いたそうでして、その後、その会社に入社したということです。働きながら勉強し、開発課長に見合う、いやそれ以上の見識を備えたということです。機械や電気、コンピュータ、材料化学に至るまで幅広く、独学で身に着けた知識と見識は、まさに、お見事と言うしかありません。

 人生の表面積と言うのは、この方の経歴を聞いたときにフッと思い付いた表現です。応対して頂いているときには知りませんでしたが、後で、その様な境遇だったと聞き、さぞかし、山あり谷ありだったろうと思ったからでした。見かけは勿論、困難や苦境を乗り切ったような痕跡(失礼ながら、よく「深いしわに刻まれた苦労の痕」なんて言うじゃありませんか)などは全く無く、穏やかで優しい物腰は、その方の人物を体現しています。

 話は変わりますが、素材や材料の物性は、その表面積によって異なることが知られています。例えば、同じ紛体材料でも、その粒径が小さくなればなるほど流動性が上がり、ナノオーダーになると異種材料ではないかと思うほど、物性が変わることもあるようです。そして、粒径が小さくなればなるほど、集合体としての総表面積は飛躍的に大きくなり、活性炭などは、その表面に形成されている孔に臭気などを吸着するのですから、いかにして微粉末にして表面積を大きくするかで性能が違うのです。

 また、頭の良し悪しは脳みそのシワで決まると聞いたことがあります。これは如何にも非科学的ですが、そのように言われれば、そんな感じも致します。多分、逆にツルンとしてシワの無い脳みそは、何も考えないような、単純な脳みそに見えるかもしれません。因みに、私は頭がツルンとしているだけで、脳みそには若干のシワが有るようです。

 このように、表面積で考えると、大きければ大きいほど、モノで言えば性能が上がり、人で言えば人物が大きくなると、私は申し上げたいのです。そしてその表面積とは、人の場合は姿かたちではなく、経験した事柄や精神に及ぼす境遇の山谷、言い換えれば、「人生のヒダ」みたいなものによって大きく異なり、それが多くの場合、人物の大きさに表れるのではないかと思うのです。

 如何でしょうか皆さん。こうしてみると、やはり、順風満帆より、山あり谷ありの方が魅力的な人物になり、人生が豊かになるということなのです。

 えっ、お前の人生はどうだったか?

 ははは、答えは簡単。滑ってころんだ、だけですよ。