【Vol.170】注意しましょう

 東京駅の東北新幹線ホームに上るエスカレーターで流れている音声案内です。聞く度に変だと思っていたのですが、案外、大切なことが隠されているような気がするのです。
 優しい女性の声で、「良い子の皆さん、エスカレーターで遊ぶのは危険ですから止めましょうね。他のお客様のご迷惑になりますよ」と、繰り返し流しているのです。
 変なのは「良い子の皆さん」です。良い子って、どのような子のことでしょう。おとなしくて、動きの少ないじっとしているのが良い子なのか、活発なのが良い子なのか、勉強ができるのが良い子なのか、或いは、勉強もできて活発で親孝行で人の言うことをしっかりと聞いて歯並びが良くてハゲじゃなくて(これは無関係か)お年寄りに席を譲ってシャツのボタンは全部とめてズボンの中に入れてチャックもちゃんと閉め横断歩道ではまず右を見て次に左を見るもう一度右を見る順番を守り安全を確認して一呼吸してから渡って笑う時はハニカミ王子のようにして汗を拭くときはハンカチ王子の…、一体どのような子なんでしょう。
 細かいことと言われるかもしれませんが、これって絶対に変ですよ。多分、言いたいのは「危険だから」ということです。だったら、「危険だからシッカリと手摺につかまってくださいね」と言えばよいのです。
 伝えるべき点はここです。なのに、なんで「良い子の皆さん…」で始まるのでしょうか。
 大体、エスカレーターで遊んだり、他人に迷惑を掛ける者は子供だろうと大人だろうと悪いのですから、本来は「老若男女の皆さん…」と言えばいいものを、何で「良い子」なのでしょうか。それに、しつけられた子供はそんなことはしませんよ。だから本当は、「悪い子、危ないことをしてはいけません」と言えばいいのです。

 皆さんにも考えていただきたいのは、その言い方に見え隠れする、何かあった時の責任を回避しようとする思惑です。
 大げさかもしれませんが、言う側が、言った後に変なクレームが付いたときに困らないようにする(防衛本能と言い換えてもよいのですが)、そのような考え方がそこに見え隠れするのです。注意を促すような大事な場面で、責任回避的防衛本能を働かせてしまっているようです。
 確かに、丁寧な物言いは公共事業者の常識です。でも、「スミマセンが危険なことは止めてください」と、迷惑を受けた(或いは受けそうな)側が最初に謝ってしまうようなことは正しくありません。
 注意を促す言葉にクレームなどはありません。危険なことはしてはいけない。間違いは間違い。必要なのは、適正なことを的確に伝えることなのです。
 敬語の使い方など、日本語特有の難しさもあるのでしょう。でも、そもそも注意を促すことは、相手の為になることです。

もっと言えば、危険を回避したり間違わないように教えてあげることなのです。

 如何でしょうか皆さん、誰かを注意する時、それは相手の為になることなのですから、ちゃんと正しく、シッカリと注意してやってくださいね。
 日本語に注意して、注意する時はちゃんと注意しましょう。