【Vol.164】未必の故意的環境悪化

 依然、「未必の故意的おべんちゃら」というBP通信を書いたことがありました。今回は、「未必の故意的」は同じなのですが、もっと深刻かも知れない環境に及ぼす影響です。それは「未必の故意的環境悪化」という問題です。未必の故意とは、行為者が罪となる事実の発生を積極的に意図したり希望したわけでもないけれど、自己の行為から結果としてその事実の発生を予測する、或いは発生しても仕方ないと認めて行為する心理状態で、故意の一種です。

 さて、私が問題だと感じている事例をあげましょう。
 最近、東京には高層ビルが立ち並び、その勢いは止まりません。益々、一極集中、東京ひとり勝ちのような状態が続いています。
 で、その高層ビルの話なんですが、最近ではトイレなどの水を「中水」、つまり上水(水道水)を一度何かに使用した後の水や、建物に降った雨水を回収した水などを再利用するように指導されています。上水、中水、下水と段々汚れた水になっていくのですが、要は、飲料水ではなく、水洗便器のフラッシングに使うのが中水です。その中水を多用するようになって、ある問題がクローズアップされてしまったのです。それは、下水配管が詰まるという問題です。
 ビルを設計する際、なるべく効率よい配置をする為に、配管設備などを集約する必要があります。トイレなどの水周りなどはその典型で、上から下まで、一直線に集約しておけば工事も楽ですし、何よりコストダウンになります。しかし、大きな建物になるとフロアも広大になる為、同じフロアのあちこちに配置したトイレから導く配管は長くなる分だけ、配管の勾配(傾斜)は小さくなってしまいます。
 そこで何が起こるかというと、勾配が小さい分だけ排水の流速は遅くなり、管内面の汚れも落ち難くなるのです。そして、ここが最大の問題なのですが、中水を使うが故の新たな不具合が激増しているのです。中水には使用済みの水に加え、ミネラル(コンクリートによるカルシウムなど)たっぷりの雨水も含まれているので、配管内に析出するバクテリアの死骸や汚泥が固化したスケールが、今までは考えられないスピードで積層・成長していくのです。以前なら2~3年は大丈夫だった配管が、今は早いもので半年で詰まってしまう、そんなことになってしまったのです。

 実は、このような高層ビルを設計するデザイナーは、この問題が出る可能性を十分に把握する立場にあるのです。しかし、「中水を使うことを義務付けられている」というばかりで、後から起こる問題には知らん振りです。
 お役所も知っている筈ですが、そう簡単には「限られた水資源を有効に使う為に、中水の再利用を促す」ことを撤回する訳にはいきません。結果、汚れを落とす為の洗剤や強い薬剤を配管に注入することになり、かえって環境に悪影響を及ぼすことになってしまうのです。

 これが、未必の故意的環境悪化です。このように、確かにお題目的には正しいことでも、実は悪い結果を招くことがあるのです。
 見渡せば、京都議定書に批准しない超大国や、酸性雨が降り注ぐ原因になっている国に比べれば些細なことかも知れません。しかし、「未必の故意的環境悪化」的には同じ問題であり、責任もあるのではないでしょうか。

 安全、環境、法令順守。新時代のパラダイムを知れば知るほど、私たちはいつも、何が本当に正しいことなのか、それを見極めて行くしかないのです。