【Vol.53】挑戦者の基盤

 最近、会社を辞めて、新しい事業に挑戦する方に、お会いする機会がありました。しかも、私が関係する企業にお勤めになっていた方です。開発のご担当で、私と直接一緒に仕事をしていましたが、暫くして所属が変わられ、いつの間にかお付き合いも無くなってしまいました。

 そのUさんが、お声を掛けてくださったのです。まさに「朋(友)あり、遠方より来る」です。久し振りにお顔を見ると、数年前とちっとも変わりません。挨拶もそこそこに、昔話に花が咲きました。秋の夜長。嬉しくて、お酒の量も増すばかりです。
 聞くとも無しに、辞めた理由の話になりました。「実は新しい開発をやりたくなって…。やはり、今の会社ではムリでしょう。だから、独立してやるしかないと思ったのです」。そう言われても、50歳を超え、いくら前向きな私でも、Uさんの行く末に、大きな不安を感じざるを得ないのが実感です。
 一体、決断した(出来た)本当の理由は何なのでしょうか、聴きたくなりました。照れくさそうに答えてくれたUさん。「女房や子供が、こちらもビックリするくらい、『お父さんがやりたいのなら』と応援してくれたのですョ」。続けて、「『ダメだったら、皆で働けばいいじゃない』って娘が言うんですよ」。こんな話を聞いたら、もう、こちらの目がウルウルになったのを気付かれないようにするのが精一杯です。

 でも、それで合点が行きました。要は、家庭という基盤が万全だったのです。精神的に、とっても不安になった時、お金のことも大切ですが、一番大事なのは心の支えです。家族の、しかも受験を控えた娘さんも心から応援してくれるなら、誰だって頑張れるだろうし、失敗しても、又、頑張れると決心できると思うのです。
 秋の夜長はまだまだ続きます。
 随分とお酒が入って、もうメロメロ。またの再会を誓いながら帰ろうというとき、Uさんがしみじみと言いました。「会社には本当に感謝しているんです」。「色んな事を教えてもらったと思うのです」。「そして、そのことを、退社してから本当に気付いたんです」。色んな事があったでしょうに。私は、又、ウルウルになって、思わず力一杯、握手しました。

 秋の夜長。挑戦者になった人との再会。基盤は家庭。私はシアワセです。