【Vol.342】ビジネスモデルもバリアフリー

 最近、気になることがあります。それは、開発においての心構えがない人といいましょうか、異分野・異業種の話になると途端に理解ができなくなる、いや分かろうとしない人が増えていることです。このような業際を越えようとしない人、つまりビジネスモデルにバリアーがあると思い込んでいる人が増えているのは問題です。
 言い換えれば、景気が良いということかもしれません。現業が順調なのだから、なにもリスクを冒してまで異分野・異業種に出ていく必要がないということかもしれません。しかし、本当にそれでよいのでしょうか。
「このまま景気は好調で、平和な右肩上がりがいつまでも続いて安泰だ」
 本当にそうなのでしょうか。

 ある人が言いました。
「津波の被害に遭い、あれだけの苦労をしたのに、それをもう忘れた人がいる。『喉元過ぎれば熱さを忘れる』は、全てに言えることなのさ」
 まさにその通りです。人間というのは、それが本能と言えるくらい、つらかったことや苦労をすぐに忘れてしまうのです。

 開発においても同じことが言えます。将来に不安を覚えたり現業に陰りが見えたりしたとき、企業は開発に乗りだします。
「今、元気なときに、将来の備えをしよう」
 そう言って、開発に精を出すのです。
 お世話になっているクライアントの多くはこのようにいつも備えています。ですから、私としては、先に書いたような人が増えているのは何とも解せないのです。一体、何をもって「安泰」としているのでしょうか。
 何もしなくても安泰。それは、リスクを取りたくないという防衛本能かもしれません。あえてバリアーがあるような言い方をして逃げ道をつくっているように、私には見えるのです。

 こんなことがありました。
 ある業界の将来に陰りが見え始めました。私がそう見えただけではありません。誰でも少し考えれば分かることで、その業界全体に逆風が吹き始めたのです。
 そこで思い付くことがあったので、ある企業に提案してみました。しかし、それを聞いたご担当はこう言いました。
「これまでのお付き合いはもちろんのこと、知り合いもいない業界に行くなんて、そんなリスクをどうしてのみ込むことができましょうか。障壁が大き過ぎます」
 私は返答に困りました。一体、何を論拠にリスクと言ったのか、一体、何をもって障壁が大きいと言ったのか――それが分からなかったからです。
 なぜ検討もしないうちにバリアーを築くのでしょうか。(失礼ながら)自分で勝手にバリアーを築いておきながら、しかもそれは越えられないものと、やはり勝手に断ずるなんて、私からすればそんなもったいないことをどうして言い切れるのでしょうか。
 バリアーなどは存在しないと思えば、それだけのこと。最初から無いものを見たつもりになって、それがバリアーであるなどと言うのは、何としても理解できません。

 例えば車椅子で移動している人たちは、健常者には何でもない段差や階段がとても大きなバリアーとなって、行く手を阻みます。ですが、そのような段差が無くなる、つまりバリアフリーとなった途端に、車椅子はどこにでも自由に動くことができるようになります。
 開発も同じこと。業際の垣根、つまり業種・業態のバリアーを無くせば、開発者はどこでも行くことができるようになるのです。それに、ここで言うバリアーは物理的なモノではなく、人の意識の中にある考え方のことですから、思考を変えさえすればよいのです。

 皆さんの心の内には、このようなバリアーはないと思いますが、もしもバリアーが気になったときには、どうかこの話を思い出してください。
 ビジネスモデルにバリアーはありません。あるとしたら開発者の心の中に、それも自らが築いてしまった亡霊あるいは幽霊みたいなバリアーです。