【Vol.341】風が吹かないときもある

 いつか「風が吹けば桶屋が儲かる」という話を書きました。

 まずは、この例え話のおさらいから。
 お江戸の時代。当時は舗装道路なんかありませんから、市中に強風が吹き荒れますと砂塵が舞ってそれが目に入り、中には失明する人もあったとか。そういう人は、仕方なく三味線引きとなって市中を回り、小唄などを歌って小銭を稼いだそうです。
 そのような行為を門付け(かどづけ)といいます。門付け芸人が多くなりますとおのずと三味線の需要も多くなりますが、三味線の胴の皮は猫の皮を用いるので猫の捕獲量も多くなり、その結果、市中の猫が少なくなります。一方、、猫はネズミの天敵なので、その分だけネズミが増えてネズミが桶をかじることが多くなります。それで、桶の買い換え需要が増えて桶屋が儲かる――という話でした。

 さて最近、この逆の話と言いましょうか、それまで増えていたものが減ってしまうという話を聞きました。「電気自動車(EV)が増えると自動車修理工場が減少する」というものです。

 ご存じのように、自動車業界は大きな変動期を迎えています。ハイブリッド車(HV)に始まった自動車革命は今、EVの時代に軸足を大きく移しつつあります。
 これまで「それは未来のこと。まだまだ時間はかかる」というのが大方の見方でしたが、お隣の中国では具体的な数字と時期を挙げてEVに切り替えていくと発表され、多くの人が驚きました。さらに、米国ではタクシーの自動運転車を認可するという州も現れるなど、猛烈な勢いでEV化・自動運転化が進むものと思われます。
 そしてここが今回のお話のポイントなのですが、そうなりますと、クルマの修理や車検を担ってきた自動車修理工場は、逆に、猛烈な勢いで仕事が減少するというのです。

 エンジンやトランスミッションのないEVは故障する所が少なく、たとえ故障したとしても壊れた部品を交換をすればいいのですが、それは、修理とは言いません。電球が切れたときと同じく修理ではなく交換であり、工具があれば誰でもできてしまいます。
 加えて、多くの自動車が自動運転になると、限りなく事故が少なくなります。ということは、車体の修理も限りなく少なくなる、つまり自動車修理業という職業が激減することになるのです。

 何と恐ろしいことでしょう。この国にはおよそ14万の(指定工場を含む)自動車整備・修理業者がいるのですが、そのかなりの数が不要になるというのですから、一体、どれだけの経済的損失と雇用が失われるのでしょうか。考えるだけでゾッとします。
 「風が吹けば桶屋が儲かる」という例え話を持ち出すのも不謹慎なくらいに重大かつ深刻なことですが、仕方ないからそれでおしまい、では寂しすぎる話です。

 では、これからどうするか。それを考えるのが私の仕事です。そして、それも努めと思えば、これ以上のやりがいはありません。
 果たして、自動車整備・修理業者さんがやるべき(やることができる)新しい事業を思い付きました。風が吹けば桶屋が儲かるのと同じように、EVが増えると回りまわって自動車整備・修理業者さんも儲かる仕掛けです。
 ですが、今は知的財産のこともあり、詳細をお話しすることができません。申し上げられるのは「風でもEVでも、何か変化があったとき、それがビジネスチャンスになる」ということです。
 よく見ると、この事例のように、何かが増えればそれにつれて増えるだけではなく、逆に減ることはあるものです。昔、「おしてもだめならひいてみな」という歌謡曲ががありました。まさにその通りで、増えたり減ったり、山に登ったり下ったり――開発とは、そのようなことなのです。

 そして、そのいずれの場面でもお手伝いできることがある。私にとって、これほどうれしいことはありません。