【Vol.339】血液は嘘をつかない

人間ドックに行った翌日、禁酒も解けていつものお寿司屋さんへ参ずるとなじみ客の飲み友達がおりまして、自然にドックの話題になりました。
 肝心のドックの結果というと特段に悪いところはなくホッとしたのですが、実は、血液検査のガンマ何とかというところの数字がピョコンと目立っていました。要するに少々(?)呑み過ぎということですが、肝臓自体を破壊するところ(表記は忘れました)の数字は平常(お医者様にそう言われました)でした。
 そんな話をしましたら、友達から「少々って、それはとんでもない数字ですよ。放っておいたら肝不全、そして肝臓癌へと進行します」と、もう手遅れみたいに言われたのです。私もカチンときまして、以前この友達がドックに行ったときに聞いた数字を思い出し「この間のあなたの数字よりもいいと思うんですけど……」と言い返しました。ところが「何を言っているんですか。自分はあれから節制して良くなったはずですし、今の問題は多喜さん、あなたの数字なんですよ!」と、何やら鬼の首を取ったように、うれしそうに言われてしまいました。
 メクソハナクソヲワラウとは、まさにこのこと。お互いに焼酎ロックをガンガン飲みながらのやりとりです。
 すると、客同士が冗談半分で面白がっているのを見ていた店の亭主も、訳の分からないことを言いだしました。「お互いこの歳になっているんだから、今になって酒を控えても効くわけがない。それに、数字なんて絶対じゃないからね」。要するに、もっと呑んでほしいと言っているのです。
 そうこうしているうちに、他のなじみ客が入ってきました。この人も飲み友達です。この友達からは「ははは、ドックの結果についてどっちがいいのか悪いのか、ですか。結論を言えば、血液は嘘をつきませんからどっちもダメ、です。お酒は控えましょうね」と、やはり焼酎ロックをグビグビ呑みながら言われました。こうなると、3人でのメクソハナクソヲワラウのともえ戦に突入です。
 かくしてその晩は、大いに盛り上がりました(笑)。

 たかが飲み友達同士のたわいない話だったのですが、家に帰って少し考えました。そして「そうか、『血液は嘘をつかない』、それはホントだな」と思ったのです。
 人間ドックの血液検査は健康状態を見るために大切ですが、血液にはほかにも実にさまざまな情報が詰まっています。最近では、血液をほんの1滴採取するだけでほとんどの疾病が分かるようにもなってきたそうです。こうなりますと、血液は人の生死に係る情報源とも言えましょう。
 また、血縁という親子・兄弟姉妹などの血のつながった関係や、血筋という先祖から子孫への血のつながりも、血液に係る情報の一つと言えるでしょう。

 良くも悪くも「それは血だよ」と言うことがあります。例えば、我が子が良いことをしたり学業での評価(通知表)が良かったりしたときには、父親も母親も「自分の血を継いでいる」と自慢することがあるでしょう。逆に、悪いことをした人に対して「そういうことをする血なんだ」と、血のせいにすることもあります。
 こうしてみますと、血液は私たちの身体に係る重要な生理的機能を持つ、赤血球と白血球と血小板、それと血漿(けっしょう)から成る液体であるとともに、人間そのものに係る情報を持つものとも言えるのではないでしょうか。さらに言えば、血液は人間の過去から現在、そして未来までの情報を持っているといっても過言ではありません。

 「血液は嘘をつかない」と友達に言われたことから、私はとても重要なことに気が付きました。それは、受け継いだ血を大切にするのはもちろんですが、自らの血を汚すようなことをしてはいけないということです。
 ご先祖様から受け継いだ血を、子供たちやその未来の血縁者のためにも大切にするとともに、血に正直であろうと思います。

 えっ、じゃあ、酒をやめるのかって? だからぁ、言ったじゃないですかぁ。「正直であろうと思います」って。へへへ。