【Vol.336】 ビルの名称

 弊社が入居しているビルのオーナーが代わり、ビルの名称が変わりました。これまでのオーナーは日本生命という保険会社で、ビルの名称は「日本生命一番町ビル」でした。これを、三菱地所という大手不動産企業が買い取り「千代田一番町ビル」になったのです。「日本生命」が「千代田」に変わっただけのことですが、私にとっては大いに感じるものがありました。

 若い頃……20代前半だったでしょうか、私が仕事で一番町の会社に出張(当時は静岡に住んでいました)したときです。東京の、しかも皇居の横にある番町(一番町から六番町まであります)周辺を歩きながら「いつか千代田区の一番町に事務所を置きたい」、そう念じたことがありました。頑張って都心の、しかも一等地の番町に自分の事務所を持てたらどんなに素敵だろう。できるかどうかは分からないけれど、念じ続ければ何とかなるかもしれないと、それからずっと心の内に念じていたのでした。
 その結果、30年前に番町に出ることができ、いくつかのビルを経て、10年前に今のビルに入りました。日本生命保有の、このあたりでは上等なつくりの立派なビルです。「かつての夢が成就した!」――そんな達成感を味わったものです。
 そして、この6月からオーナーが代わり、ビルの名称も変わったのですが、あらためまして、ご縁と言いましょうか感慨と言いましょうか、うれしくも心に染みる感動を覚えたというわけです。

 千代田一番町ビルという名称は、まさに東京のど真ん中を示しています。住所は東京都千代田区一番町23番地3ですが、多分、住所を書かなくてもビル名だけで郵便物が届くのではないかというくらいに、ビルの所在が分かる名称です。
 若い頃に念じ続けた「いつか千代田区の一番町に事務所を置きたい」という願いが、まさにビルの名称にも通じたといったら、何か、取って付けたように思われるかもしれません。しかし、私にとっては一大事。こんなにうれしいことはないのです。
 先日、月が変わった朝に出勤しましたら、当たり前なのですがビルの看板が掛け替えられていました。それが、くどいようですが千代田一番町ビルなのですから、もう、うれしくてうれしくて。まさに志望校に受かって初登校するような、そんな気持ちになりました。

 「そんなことでうれしがってどうする」とおっしゃる方もおられましょう。でも、いいのです。私の40年にわたる夢が実現した、その印(しるし)の看板なのです。
 きっと、この界隈で私のような想いで看板を見ている人はいないのでしょうが、そんなことは構いません。私はうれしいのです。

 いつか書いたことですが、私はあと、60年は仕事をしようと思っています。誰に何を言われようとも、そう決めたのです。
 一方で、看板を見ながらこうも思いました。60年後、このビルはあるのだろうか。ビルもマンションも、コンクリート構造物は50年が寿命といわれているのですから、それを考えれば、このまま残っているはずはありません。
 しかし、たとえ建て替わったとしても「千代田一番町ビル」という名称になるに違いありません。どんな形のビルになったとしても、またオーナーが代わったとしても、千代田区の一番町にある千代田一番町ビルになると思うのです。

 若い頃に憧れた千代田区一番町。そして今、そこにある千代田一番町ビルにいる私。今までの40年とこれからの60年(笑)。一体、60年後の番町周辺はどのような風景になっているのでしょうか――楽しみです。