【Vol.325】負けてサバサバ

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 こんなことを言うと叱られるかもしれませんが、オリンピックを見ていますと、負けて謝っている選手がいます。何も謝る必要も理由もないと思うのですが、「申し訳ありません」と泣きながら言うのを見ていると、興醒めと言いましょうか、ガックリしてしまいます。
 いえいえ、謝り方が悪いとか、なんでメソメソしているのかと、とがめているのではありません。謝ること自体、私はおかしいと思うのです。
 実は、私もスポーツ (剣道ですからスポーツというより稽古の道と考えていましたが) をしていましたが、負けてメソメソしたり、まして謝るなんて絶対にあり得ないことでした。
 だってそうではありませんか。剣道をするのは私の勝手で、試合に出るのも自分の意志。勝ち進めば、それは私の実力ですし、誰の世話(剣道は一対一の競技)にもなりません。もちろん、道場に通わせてくれた親や稽古をつけてくださった先生方には感謝していますが、競技の場では自分一人のチカラです。
 確かに、団体戦は同僚のチカラも必要ですが、あくまでそれはその人の技量の問題で、団体全体の責任を問う人がいるとしたら、私には理解できません。

 それなのに、個人戦だろうが団体戦だろうが、負けた選手が泣きながら謝るのはなぜでしょう。
 そんなことは美談として黙って見ていなさいと仰る方も多いとは思いますが、あえて私は言いたのです。謝る必要も理由もないのです。謝られると妙な気分になるのは、私だけなのでしょうか。
 第一、オリンピック選手になるだけでもすごいじゃありませんか。誰だってなれる訳じゃなくて、長い時間をかけてすごい努力をして、しかも、幸運や不運もあって、その上で出ているのではありませんか。

 一体、謝ることによってうれしい人はいるのでしょうか。
 「やれやれ、期待していたのに負けてしまった、でも、謝ったから勘弁してやるか」と言う人がいるのでしょうか。
 自分とは違う能力を大いに発揮して、それも、オリンピックという4年に一度の晴れ舞台に立っただけでもすごいのに、その選手に向かって謝れと言う人がいるのでしょうか。
 もしも居るとしたら、そんなヤツなんて無視すればいいのです。一生懸命に練習して、まさに、これまでの人生の全てをここに賭けている選手に向かって、そんな失礼なこと言う者は人間ではありません。

 私は、謝る選手にケチを付けているのではありません。どうか、堂々と胸を張り、たとえ一回戦で負けたとしてもサバサバとして欲しいのです。
 それは悔しいかもしれません。しかし、悔しいのは自分であって、見ている私たちは残念ではありますが、悔やむことはありません。自分が出ている訳ではありませんから、悔やみようにも、何もしていないのですから悔しいことはないのです。
 悔しく思うのは選手の勝手です。多分、悔しく思うのは、もっと練習していればよかったとか、対戦していて集中できなかったとか、要するに、自分のことではありませんか。まして、一生懸命の結果なら、悔やむことも残念に思うことも無用です。堂々と、チカラを出し切った、そのすがすがしい顔を見せて欲しいのです。

 負けてサバサバして、しかも冗談を飛ばしている女子マラソンの選手がおられます。「いやだあ! 金メダル取れなくって、やだあ~」と笑い飛ばしているお顔を見て、私は泣きそうになりました。
 本当に、本当に、一生懸命にここまで来たのだと、私は感動したのです。

 人生にはいろいろなことがありますが、負けたり具合の悪い時こそサバサバする。それが大事なことではないでしょうか。