【Vol.319】アイデアはなぜ出るのか

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先日、公共研究機関で講演させて頂きました。ご聴講頂いた方々はプロパーの方もおられますが、大半は国のお役所の方や大学の研究者とのことでした。いずれも、研究開発の専門家であり、それを業とされている方々です。
 よく考えれば、研究開発の専門家を前にして、研究開発とは何かという、まさに釈迦に説法を地で行くような講演をする私も冷や汗ものなのですが、そこは、私の無知蒙昧に免じて頂いた恰好でした。

 
 講演が終わって、質疑応答の時間がありました。普段、ここでやる講演会では、質疑応答の時間を設けても、殆ど質問は出ないと聞いておりましたので、私としても高を括っておりました。ところが、ご質問が相次ぎ、予定の時間を大幅に超えてしまい、嬉しいやら困ったやら、それはそれで楽しい時間となりました。
 その中で、私にとっても新鮮なご質問がありました。それは、「どうしたらアイデアは出るのか」というご質問です。
 如何でしょうか。アイデアはどうしたら出るのか。このご質問に皆さんだったらどのようにお答えされるのでしょうか。
 はじめ私は、ご質問の意味を咀嚼するのにちょっと時間が必要でした。このようなことを聞かれたのも初めてですし、私自身、なぜアイデアが出るのかということ自体に疑問を感じたことがなかったからです。

 少し間を置いて、逆に「あなたはアイデアを出すのに苦労されているのですか?」と、訊きました。その方は、「そうです。いつも困っているのです」と、答えられました。
 ここで私は質問の意味を理解することが出来ました。そして改めて、アイデアを出すのに苦労されている方が多いことを知ったのです。
 その方はこうも言われました。「職場ではアイデアを出すのが仕事ですが、それが苦痛なのです。多喜さんは楽しいと言うけれど、なぜ、アイデアがそんなに出るのでしょうか」と言われたのでした。
 私は、私自身が他の人と比べてアイデアが出るかどうか考えたことはありませんが、自分がアイデアが出なくて困ったことはありません。多いか少ないかは別にして、むしろ、普通に出てくるのです。

 皆さんはどうお答えになるでしょう。アイデアが出る、その理由は、なんでしょうか。

 禅問答みたいなことかも知れませんが、案外、このご質問には本質的な深みがあります。それを大げさに言えば、人間しか出ないアイデアとは、一体、どうしたら出るようになるのかという、もっとも人間特有の疑問でもあると、私は思いました。
 そして多分、この疑問の答えは人の数ほどあるかと思います。ですので、ここでは私の答えを書くことに致します。また紙面を改めて、じっくりと語りたい気持ちもありますが、先日の講演で、私がお答えしたことです。

 私は、「アイデアが出るのは、私自身がもっと幸せになりたいと思っているからではないでしょうか」と答えました。
 加えて、「アイデアを出すのは、もっとよいものを作りたい、或いは、もっと喜ばれる事業やサービスを提供したい、その為ですし、それは多分、そのことによって自分もよくなりたいと無意識にそう思っているのです」と、答えました。
 そして最後に、「それは私自身がもっと幸せになりたいからです」と言ってしまったのですが、それが正直な気持ちです。恥ずかしいとも思いましたが、私は、自分と家族と、周囲の方々がシアワセになると嬉しいのです。

 如何でしょうか。アイデアが出る理由は幸せ願望です。幸せになりたいと思うからアイデアが出るのです。ですから、今のところ、私は幸せなのです。(笑)