【Vol.305】回り道

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規模の部品メーカーの開発部長 (以下、部長) ですが、私には立派に見えて、皆さんに知って欲しい人物です。

部長のアイデアは、私も驚くと言っていいほど広範で多彩、まさに、開発をするには理想的なスキルの持ち主です。ところが、もっとも驚いたのは、部長が中卒だということです。
曰く、若い時はやんちゃでバイクを乗り回していたという、今で言うところの暴走族であったとか。その、暴走族あがり (失礼!) なのに部長になるとは、しかもこの会社は立派な自動車メーカの協力企業で、技術も人材も抜きん出て立派な会社で、彼はそこの部長なのです。
部長と飲む機会がありました。その時に、「回り道をしました」と言われ、私はそれが良かったのではないかと言ったのですが、大きく頷く部長の目が、キラリと光ったのが印象的でした。

多分、彼は何も後悔をしてはいないのです。周りの人は、学校に行って勉強しなくてはいけない時に、バイクを乗り回し、高校も大学も行かなかった彼を非難する人もいたでしょう。それを、色々な仕事をしながら大検に合格し、たまたま出会った今の会社に入社するまで、普通の人とは違ったキャリアを積んだという自負が、部長にはあるのです。
私が立派だというのは、一見、遠回りだと思われること、それを隠さずに話して、それが彼の自信、まさにキャリアとなっているということです。

よく考えると、高校、大学と一生懸命に勉強して会社に入り、そのまま順風満帆の人生を送る人は、案外、少ないのではないでしょうか。
乱暴な言い方をすれば、一生懸命に勉強することを悪いとは言いませんが、高校・大学・会社員と、一直線で進んだ人の方が、何か、弱いような気がします。
少年から青年になる時、つまづいたり転んだり、或いは他のことに夢中になって、真っすぐな道から飛び出して、道草や遠回りをした方が、多くの、本当の勉強になるのではないでしょうか。

最近、就活で内定をもらった学生が、他の会社の内定をもらい、最初の会社に内定辞退を申し入れるのを、親が連絡するという話を聞きました。
何ということでしょう。これから社会人になるというその時に、断りの連絡を親に頼むなんて、一体、その人は本当に自立して長い人生を生きて行けるのでしょうか。

部長には素敵な奥様と家族がいます。お子さんたちは、どうも、父親に似ているようで、高校受験を外国にしたいと言っているそうですが、まさに、自分の人生を自分で拓こうとしている、そんな感じです。多分、父親だけでなく、奥様も、そのような生き方の夫と同じ考え方なのでしょう。

私は、この部長が好きです。話が合うし、何より、アイデアを語り合う時の彼の目が好きです。ワクワクウキウキ、新しいことを考える時が最高に幸せと言う部長は、私と同じ波長なのです。
同じ波長で交信する私たちは、歳が離れていようが、今までの境遇が違おうが、例え今でなくても、過去でも未来でも、きっと、会った途端に話が合うに決まっています。
それは、どんなに回り道をしても、同じ方向に行こうとしているからなのです。