【vol.303】お察し申し上げます

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 たまに、本当に大変だっただろうと、お悩みの状況を想うことがあります。それも、こちらは何もできないのですから、お気持ち、本当にお察し申し上げますと言うしかない、そんなことがあるのです。

 主催した会合に来てくださった、メーカーの開発ご担当者。自社商品の開発についてのご相談がありました。では、一度ご訪問しようということになり、その会社にお伺いしたのです。
 開発型のその会社は、その業界では有名な優良企業でもあるのですが、工場を見せて頂き、その伝統と技術の素晴らしさに、私は感動いたしました。開発ご担当者との懇談も、それはそれは楽しく、私も出来る限りのご提案を致しました。
 話をしていると、この会社の現況が判ります。今は既存商品も売れていて、業績は絶好調、何の問題もないようです。
 しかし、そのような時こそ、次に向けて新事業や新商品の開発を進める、それが大事なことと申し上げました。当然、ご担当はそのようにお考えになったのでしょう。会合にご参加頂いたのも、工場見学をセットしてくれたのも、そのためです。これから上司にお伺いを立てて、新規開発を進めたいと、力強く話してくれました。

 しかし、しばらくしてから、意外なメールを頂きました。
 あれから上司に話したところ、今は新規開発をするタイミングではないと、アッサリと否定されたとのことです。メールの行間に、悔しさと無念さが滲み出るような、そんなご連絡でした。

 実は、このようなことはよくあるのです。ご担当や開発の現場で頑張っていらっしゃる方々は、開発の必要性を理解していて、具体的なテーマが見えれば、それこそ、のめり込むように取り組みたいと思うのですが、その席にいなかった、しかも会議の雰囲気や内容を聞こうともしない上司は、往々にして、それを否定するのです。

 せっかく、新しい開発テーマが見えたのに、こんな目に遭う、そのご担当者、一体、どんな気持ちになるのでしょう。こんなことは何百回 (いや、何千回?) と経験している私には飲み込めても、当事者であるご担当者のお気持ちはどうか、それが本当に心配です。
 何を言っても、慰めにもなりません。そもそもが、何の理由も論拠もなく、とにかく今は動くな、このままでいいと言われて否定されたのですから、どうやっても、その話が復活したり良い方向に行くことはないでしょう。ですから、本当に、お察し申し上げます、と言うしかないのです。
 そして、せめて申し上げたいのは、いつかまた、開発でご一緒できるかも知れない、
その希望をお互いに持ちたいと思うのです。
 その時を信じ、またお会いできるのを楽しみにしています。